生成AI研修は内製か外注か|自社で作ると詰まる4か所【2026年版】
目次
「教材くらい、うちで作れませんか」
生成AI研修の相談を受けると、かなりの確率でこの質問が出ます。無理もありません。ChatGPTに「営業向けの生成AI研修のカリキュラムを作って」と打てば、30秒で目次が返ってきます。動画も社内の会議ツールで録画できます。外に出す理由が見当たらない、というのが最初の感想として正しいのです。
ただ、実際に自社で営業向けのAI教材を作ってみると、詰まるのは中身の正しさではありませんでした。詰まったのは別の4か所です。この記事では、その4か所と、内製か外注かを分ける判断の分解、そして内製を選んだ瞬間に助成金の対象から外れるという制度上の線をまとめます。
この記事の要点
- 内製か外注かは「どちらが安いか」では決まらない。題材・設計・運用・制度の4つに分けると、会社ごとに答えが変わる
- 自社で作ると詰まるのは中身ではなく、言葉の揺れ・復習の間隔・難易度・終わりの条件の4か所
- AIに書かせても人の工数はゼロにならない。先に人が書くものが3つあり、最後に人が1問ずつ見る工程も消えない
- 内製した研修(事業内訓練)は、eラーニング系の助成金では対象外。個社専用にカスタムした教材も同じく対象外
- 順番を間違えると、内製でも外注でも同じ結果になる。実際に「研修を先にやって失敗した」会社がある
なぜ「内製でいいのでは」と言われるのか

まず、この問いが出てくる背景を公的な統計で確認します。厚生労働省の令和7年度 能力開発基本調査(企業調査7,452社・事業所調査7,194事業所・個人調査20,127人、訓練実績は令和6年度分)では、人材育成に関する問題点が次のように出ています。
| 事業所が挙げた人材育成の問題点(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 何らかの問題があるとする事業所 | 80.1% |
| 指導する人材が不足している | 59.5% |
| 人材を育成しても辞めてしまう | 51.6% |
| 人材育成を行う時間がない | 45.5% |
| 育成を行うための金銭的余裕がない | 14.3% |
| 適切な教育訓練機関がない | 9.5% |
読み方はひとつです。内製が検討されるのは「外注先が無いから」ではありません(それは9.5%しかいない)。足りないのは指導する人(59.5%)と時間(45.5%)のほうです。
ここに内製を当てると、いちばん足りていない資源を使う選択になります。金銭的余裕が無いから内製、という会社は14.3%で、費用は主因ではありません。同じ調査では、OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額は2.0万円です。教材を1本作る工数を人件費に換算すると、この金額はすぐ超えます。
それでも内製が正解になる会社はあります。分かれ目は次の4つです。
判断は4つに分けると決まる
「内製か外注か」を1つの問いとして考えると決まりません。4つに割ると、項目ごとに答えが出ます。
| 分解 | 中身 | 内製が向く場合 | 外注が向く場合 |
|---|---|---|---|
| 題材 | 何を題材にするか | 自社の商材・商談フロー・禁止事項が題材の中心 | 生成AIの基礎、職種共通の使い方が中心 |
| 設計 | 学習の順番・復習・難易度・合否 | 教育設計の経験者が社内にいる | 経験者がいない/兼務で時間が取れない |
| 運用 | 配る・測る・直す | 推進担当が専任に近い形で置ける | 推進担当が兼務で、月数時間しか取れない |
| 制度 | 助成金・稟議 | 助成金を使わない前提で予算が取れる | 助成金を前提に総額を圧縮したい |
多くの会社で答えが割れるのは、題材だけ内製・設計と運用は外注という形です。自社の商談フローを題材にしたいのは正しく、それを教材の形に落とす作業だけが外に出る、という分け方になります。
自社で作ると詰まる4か所

ここからは、自社で営業・マーケ向けの教材を作ったときに実際に詰まった場所です。どれも「内容が間違っていた」わけではありません。
①言葉が揺れる
いちばん最初に壊れるのがここです。生成AIの説明には比喩が必須で、たとえば「トークン」を説明するとき、ある問題では「文字のかけら」と書き、別の問題では「単語の単位」と書く。どちらも間違いではありません。ただ、受講者は同じものだと気づけません。
対策として決めたのは、1つの概念に1つの比喩を固定し、それ以外の言い換えを禁止語として一覧にすること。そして、その禁止語が問題文・選択肢・解説のどこかに出ていないかを機械でチェックすることです。AIに量を書かせた瞬間に比喩が滑るので、人の目視ではまず追えません。
②復習の間隔が設計されない
1回説明して終わりでは定着しません。かといって、最後に「復習の章」をまとめて置くと、受講者はそこだけ飛ばします。
自社で決めたのは、復習専用のレッスンを作らないという方針です。代わりに概念ごとに出す位置を割り当てました。
| 出題の回 | 出す位置 |
|---|---|
| 1回目(初出) | その概念を導入したレッスンの中で2〜4問 |
| 2回目 | 初出から2〜3レッスン後 |
| 3回目 | 初出から5〜7レッスン後(多くはまとめのレッスン) |
| 4回目以降 | 中核の概念だけ、次のコースの序盤に1問 |
内製で最も抜けるのがこの割り当てです。教材は1本ずつ作るので、作っている本人からは「概念の出現間隔」が見えません。全体の台帳を別に持って検算しないと、1度も再出題されない概念が普通に残ります。
③難易度が易しい方へ逃げる
完走率を上げたいと思うと、問題は自然に易しくなります。これは作り手の意思の問題ではなく、反応の良さに引きずられるからです。
自社では、1問あたりの初回正答率が90%を超えたレッスンは「設計失敗」として直すことにしました。適正帯は55〜85%です。40%未満なら説明不足のシグナルなので、こちらも直します。難易度を落として完走率を上げる方向には逃げない、と最初に決めておかないと、半年後には「全員が満点を取る研修」ができあがります。
ここは測り方も一緒に決める必要があります。学習の修了率は分母の定義で倍近く変わるからです。査読誌 Open Praxis に載ったトルコのMOOCポータル4コース(登録者15,805人)の分析では、同じデータでも修了率は全登録者を分母にすると30.02%、実際に学習を開始した人を分母にすると43.08%、「修了する意思がある」と回答した人を分母にすると48.13%でした。社内に出す数字は、分母を先に固定してから出すべきです。
④終わりの条件が主観
最後がこれです。「この教材はもう公開していいのか」を誰がどう決めるのか。
内製だと、作った本人が「まあ大丈夫だろう」と判断して公開されます。悪意はなく、ほかに判断できる人がいないからです。自社では、レビューの合格条件を項目で固定し、機械で確認できる部分は機械に任せました。たとえば解説が「〜が正解です」だけで理由が書かれていない問題は、公開前に自動で弾かれます。
この4つは、どれも「生成AIに詳しいかどうか」とは関係ありません。教育設計の作業です。内製の可否を分けるのは、AIの知識ではなくこちら側です。
「AIに作らせれば十分では」への答え
当然の反論なので、先に答えます。AIに教材を書かせること自体は、当社もやっています。ただし、AIが書き始める前に、人が書いておくものが3つあります。
- 用語集と比喩の対応表(禁止語つき)——①の土台。これが無いとAIは毎回違う比喩を選ぶ
- 概念ごとの出題回数の割り当て——②の土台。どの概念をどのレッスンで何回出すかを先に決める
- 模範解答の2問——文体・粒度・難易度の基準。これが無いと出力が毎回ぶれる
この3つが揃った後にAIが書ける分量は確かに多く、ここは楽になります。ただし最後に人が1問ずつ確認する工程は、当社でも消せていません。だから「AIを使うので安く早く作れます」とは言っていません。安くなるのは中間の量産だけで、前後の設計と検品は人の時間のままです。
内製を検討している会社に伝えたいのは、削減できるのは中間工程だけだということです。前後の工数を誰が持つのかが決まっていないなら、内製の見積もりはまだ出ていません。
制度で決まる部分|内製した研修は助成金の対象にならない
ここは判断が一段で終わる話なので、先に確認する価値があります。
厚生労働省の人材開発支援助成金(令和8年8月3日版パンフレット)では、eラーニング・通信制・定額制サービスによる訓練について、事業内訓練(自社で作った研修)は対象外と定められています。つまり、社内で教材を作って社内で配る形にした瞬間に、このルートの助成金は使えません。
さらに、提供する側にも要件があります。
- 「特定の事業主に提供されることを目的としているものは対象になりません」——個社専用にカスタムした教材も対象外
- 計画届の提出日時点で、その講座の情報が提供元のホームページに掲載され、申込みや資料請求ができる状態であること
- 定額制サービスの経費助成の限度額は1人1月あたり2万円
- eラーニングによる訓練は1労働者につき1年度1回まで(令和8年8月3日以降の計画届)
ここで当社にとって不利な事実を書いておきます。当社の専用教材プラン(月20万円〜)は、御社の実際の業務を題材に動画を作るもので、まさに「特定の事業主に提供されることを目的としたもの」に当たります。助成金は当てにできません。助成金込みの総額で比べるなら、汎用の一般公開講座を持つ事業者のほうが安く済みます。それが事実です。
判断としては、助成金を使う前提なら「外注、かつ一般公開されている講座」の一択になります。逆に、助成金を使わない前提で予算が取れるなら、題材を自社に寄せる自由度が上がります。要件の詳しい線引きはAI研修の助成金|対象外になる講座と通る5条件にまとめています。
内製が正解になる会社・外注が正解になる会社

ここまでを1つの表にします。
| 内製が正解 | 外注が正解 | |
|---|---|---|
| 題材 | 自社の商材・商談フローが中心 | 生成AIの基礎と職種共通の使い方が中心 |
| 社内の人 | 教育設計の経験者がいる/推進担当が専任に近い | 推進担当が兼務で月数時間 |
| 更新 | モデルや社内ルールの変更を自分たちで追える | 追う担当が決まっていない |
| 助成金 | 使わない前提 | 総額を助成金で圧縮したい |
| 期限 | 期限が緩く、作りながら直せる | 期末までに全員へ配る必要がある |
3つ以上が内製側に付くなら内製で問題ありません。逆に、2つ以下なら外注のほうが総額で安くなります。理由は単純で、内製の費用は制作費ではなく、更新が止まった後の「使われない教材」の機会損失として出てくるからです。
順番を間違えると、どちらでも同じ結果になる
最後に、内製・外注より効く論点を書きます。順番です。
AI導入の支援に入った3社は、いずれも最初のやり方で失敗しています。そのうち1社では、ご要望どおり研修から始めました。結果、受講後に出てきたのは「で、何をAI化すればいいのか分からない」という状態でした。そこで順番を変えています。
先に1プロジェクトを実装して見せる → 要領を掴んでもらう → そこで研修 → 担当者へ引き継ぎ
この順に変えてから進みました。別の1社は、AI化と同時に社内向けにカスタマイズしたAI研修動画を作ったことで、担当者が抜けた後も社員が動画を見ながら実装済みの仕組みを自分で直せる状態になりました。「自立してみんながAI化できる文化を作れた」というのが、その会社の担当者から受け取った評価です。
教材が内製か外注かより、受講者の手元に「自分の業務で動いているもの」が先にあるかどうかのほうが結果を分けます。ここが無い状態で教材だけを増やすと、内製でも外注でも同じところに着地します。研修を配った後に現場で何が起きるかはAIが社内に浸透しない3つの理由に、配った後に何を測るかは営業組織のAI人材育成|受講率の代わりに置く5つの数字にまとめています。
外注しても社内に残る3つの仕事
外注は「丸投げできる」という意味ではありません。どの形を選んでも社内に残るものが3つあります。
- 題材出し——どの業務を教材にするか。これは外からは決められません
- 推進担当——配る・声をかける・止まった人に気づく。ここが空席だと、教材の質と関係なく開封率が落ちます
- 測る数字と、測らない線——何をもって成果とするか。あわせて「人事評価には使わない」といった線を先に引いておくこと
この3つを引き受ける人が決まっていないなら、内製の議論よりそちらが先です。
よくある質問
Q. 内製と外注、結局どちらが安いですか?
制作費だけを見れば内製が安く見えます。ただし、教材の更新が止まった時点で費用は無駄になるので、総額は「作る費用 ÷ 使われ続けた月数」で見てください。更新を追える人が社内にいない場合、内製のほうが高くつきます。判断材料として、労働者一人当たりのOFF-JT費用の平均は年2.0万円(厚生労働省 令和7年度 能力開発基本調査)です。この水準に収まるかを先に計算すると、既存の教育研修費の枠内で決裁できます。
Q. ChatGPTで教材を作るのは現実的ですか?
量を書かせる部分は現実的です。ただし、その前に用語集と比喩の対応表、概念ごとの出題回数の割り当て、模範解答の2問を人が用意しておく必要があります。これが無いと、比喩が問題ごとに変わる教材ができます。当社もAIに書かせていますが、最後に1問ずつ人が確認する工程は残しています。
Q. 内製した教材でも助成金は使えますか?
eラーニング・通信制・定額制サービスのルートでは、事業内訓練(自社で作った研修)は対象外です。加えて「特定の事業主に提供されることを目的としているもの」も対象外なので、外注であっても個社専用にカスタムした教材は同じ扱いになります。適用可否は個別判断になるため、予算を組む前に労働局へ確認してください。
Q. 途中から内製に切り替えられますか?
切り替えは可能です。現実的な進め方は、最初の1シリーズを外注して設計の型(用語集・出題の割り当て・合否の基準)を先に受け取り、2シリーズ目から社内で作る形です。逆の順(自社で作ってから外に出す)は、既存教材の作り直しになるので費用が増えます。発注時に「制作物だけでなく設計の基準も納品されるか」を確認してください。
Q. 外注する場合、何を見て選べばいいですか?
価格表が公開されているか、講師が営業・マーケの実務を持っているか、成果の測り方を先に提示できるか、の3つです。各社を同じ表に並べた比較は営業向けAI研修の比較にまとめています(当社が負けている欄も残しています)。
Q. 教材さえ用意すれば、現場は使うようになりますか?
なりません。同じ調査で、自己啓発を行ううえでの問題点の1位は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」(正社員58.5%)です。一方、自己啓発の方法としてはeラーニングが45.6%で1位でした。時間が無い人が選ぶ方法がeラーニングという構図なので、1本あたりの長さと、業務時間内に開いてよいという合意のほうが、教材の量より効きます。
参考文献
- 厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」パンフレット(令和8年8月3日版) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
- MOOCの修了率と分母の定義に関する分析(トルコ Bilgeİş MOOCポータル4コース・登録者15,805人)Open Praxis 16(3), 606 https://openpraxis.org/articles/10.55982/openpraxis.16.3.606
---
執筆・監修:佐々木 優希(AIリモートワーカー代表/上場企業 営業統括 兼 AI責任者)