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対象を「回答できる照会の6割」に絞って検証したら4割減った|損保ジャパンの事例

公開 2026-09-23 / 約10

「おしそんLLM」が回答可能な照会(全体の約6割相当)に対する業務時間削減効果(2024年度トライアル結果・2025年7月1日発表)

約4割

出典:自社発表2025-07-01時点)

地域
🇯🇵 日本
業種
金融(損害保険)
AI化した領域
社内照会対応の自動化/代理店・営業店からの問い合わせ対応/社内ナレッジ検索/効果検証の絞り込み方
出典の種別
自社発表

「全社導入したら何割減るか」を先に言う会社は多いですが、損保ジャパンは違いました。全国展開を決める根拠に使ったのは、「システムが回答できる照会に絞った場合、どれだけ減るか」という条件つきの数字です。2024年度、一部の営業店と本社でトライアルを実施したところ、回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して約4割の業務時間削減効果が確認できました。この結果を踏まえ、2025年6月から全国の営業店・本社へ本格展開しています。出典と発表日つきで整理します。

この事例の要点

  • 代理店・営業店・本社間の照会対応業務に、生成AIの大規模言語モデル(LLM)を組み込んだシステム「おしそんLLM」を開発。既存の社内ナレッジ検索システム「教えて!SOMPO」(2017年開始)への照会は年間67万件にのぼり、回答業務の負荷軽減が課題だった
  • 2024年10月、全国約1,000名を対象にトライアル運用を開始(自社発表・2024年10月22日)。開始当初は自動車保険・賠償責任保険など一部の保険種目に限定
  • 2024年度のトライアルで、「おしそんLLM」が回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して約4割の業務時間削減効果が認められた(自社発表・2025年7月1日)
  • この結果を受け、2025年6月から全国の営業店・本社向けに利用を開始。膨大な社内文書を扱うにあたっては、テキストの構造化とRAG(AIに独自の情報源を付与する仕組み)で回答精度を高めたと説明されている(自社発表・2024年10月22日)
  • システムはエンジニア中心の内製チームが開発し、「ヒューマンインザループ(人間が介在する仕組み)」の設計思想を採用。生成AIの回答案と参照先文書を画面に表示し、最終的な回答は人が作成する運用

どんな会社か

損害保険ジャパン株式会社は、SOMPOホールディングス傘下の国内損害保険会社です(代表取締役社長:石川耕治氏)。全国に営業店を持ち、代理店・営業店・本社の3者間で保険の引受や規定に関する照会が日常的に発生する業務構造です。

この事例で効いてくる規模は、契約者数でも保険料でもなく、社内の問い合わせ件数です。2017年から稼働している社内ナレッジ検索システム「教えて!SOMPO」への照会だけで年間67万件。これを人手で回答し続けることが、以前から課題として認識されていました。

何が課題だったのか

発表文が挙げている課題は2つです。

1つは照会対応の負荷そのもの。「教えて!SOMPO」の運用で検索・自己解決の力は上がったものの、「解決できない場合はそのまま照会」する経路が残り、回答業務の効率化・負荷軽減が新たな課題になっていました。

もう1つはナレッジのメンテナンス負荷。2024年10月時点の発表では「コンテンツ作成とメンテナンスの負荷軽減も課題」と明記されています。回答の精度を保つには、社内文書を常に整備し続ける必要があり、その作業自体が別のボトルネックになっていました。

何をAI化したのか

対象は、代理店・営業店・本社間で発生する照会回答業務です。段階を追って展開されました。

時期段階内容
2023年開発開始内製エンジニアチームがLLM活用システムの開発に着手
2023年8月〜10月リスク評価体制の整備Robust Intelligence社と提携し、2023年8月から生成AIモデルの品質・倫理・セキュリティを多面的にテスト(提携の公表は2023年10月25日)
2024年10月トライアル開始全国約1,000名(営業店担当者・本社担当者)を対象に、自動車保険・賠償責任保険など一部保険種目で試験運用
2025年6月全国展開トライアル結果(回答可能な照会の約6割に対し約4割の時間削減)を踏まえ、全国の営業店・本社へ利用を開始

システムの仕組みは、照会内容に対して生成AIが回答案と参照先文書を作成し、画面に表示するというものです。回答者はゼロから文章を作る代わりに、AIの回答案をもとに最終的な回答を仕上げます。設計思想として「ヒューマンインザループ」を掲げ、生成AIの誤回答リスクを人の確認で吸収する構成にしています。

なぜここまでできたのか

損保ジャパンの公表値。既存の社内ナレッジ検索への照会は年間67万件。2024年10月から全国約1,000名でトライアルを実施し、回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して約4割の業務時間削減効果を確認。2025年6月から全国の営業店・本社へ展開を開始
損保ジャパンの公表値。既存の社内ナレッジ検索への照会は年間67万件。2024年10月から全国約1,000名でトライアルを実施し、回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して約4割の業務時間削減効果を確認。2025年6月から全国の営業店・本社へ展開を開始

この事例でいちばん参考になるのは、効果を語る対象を自分から絞ったことです。発表文は「全体で何割減るか」を主張していません。書かれているのは「おしそんLLMが回答可能な照会(全体の約6割相当)に対して」という、条件つきの約4割です。

裏を返せば、残り4割の照会は今回のシステムでは回答できていない、ということでもあります。それでも公開に踏み切ったのは、「対応できる範囲を正直に区切ったうえでの数字」のほうが、社内外での説明責任を果たしやすいという判断があったからだと読めます。東京海上日動が「1件あたり◯分×◯件」で検算可能な形にしたのと同じ発想で、損保ジャパンは「対象範囲を絞る」という形で数字の信頼性を確保しています。

もう1つの当たり所は、開発から展開までの順番です。2023年に開発着手、同年8月からリスク評価テストを先に開始(提携の公表は10月25日)、2024年10月に約1,000名規模のトライアル、そして2025年6月に全国展開。「効果を検証してから広げる」という手順を、1年半かけて律儀に踏んでいます。いきなり全店導入を発表する会社が多いなかで、トライアルの規模(全国約1,000名・一部保険種目限定)まで開示している点も、後から検証可能にする工夫です。

中小企業が真似できる3点

① 「全体で何割減るか」ではなく「対応できる範囲でどれだけ減るか」を測る。 損保ジャパンが公表したのは、システムが答えられる照会に絞った効果です。中小企業でも、AIで自動応答できる問い合わせの種類を先に洗い出し、その範囲だけで効果を測ると、無理のない数字が出せます。

② 人が確認する前提でシステムを組む。 「ヒューマンインザループ」という設計思想は、AIの回答案を人がそのまま採用するのではなく、参照先の文書とあわせて最終確認する運用です。誤回答のリスクを最初から織り込むことで、導入のハードルが下がります。

③ 開発→リスク評価→小規模トライアル→本展開の順を崩さない。 損保ジャパンは開発開始から全国展開まで約1年半かけています。急いで全社に広げるより、約1,000名規模での検証を挟んだほうが、展開後の手戻りが少なくなります。

社内問い合わせや照会対応の効率化は、営業・マーケの現場に近いところから着手すると成果が見えやすい領域です。対象範囲の絞り方や検証の設計に迷ったときは、私たちAIリモートワーカーのような外部の知見を借りる選択肢もあります。

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注意して読むべき点

  • 「約4割」は、システムが回答できる照会(全体の約6割相当)に絞った効果です。照会全体の4割が減ったという意味ではありません。残る約4割の照会(システムが回答できない範囲)については、削減効果は公表されていません
  • 2024年度のトライアル結果にもとづく数字です。2025年6月から始まった全国展開後の実績値は、本記事執筆時点(2026年9月)では公表を確認できていません
  • トライアルの対象は全国約1,000名、保険種目は自動車保険・賠償責任保険など一部に限定されていました。全国展開時点でどこまで保険種目が拡大されたかは、2025年7月1日の発表文からは明確に読み取れません
  • 年間67万件という照会件数は、既存の「教えて!SOMPO」への照会数であり、「おしそんLLM」導入後の件数ではありません。背景説明として引用されている数字です
  • コスト・人員への影響(何人分の業務量に相当するか、人員配置がどう変わったか等)は公表されていません。発表文は「社員の生産性向上」「お客さまへのより良い商品・サービスの提供」という目的のみを述べています
  • すべて損保ジャパン自身の発表にもとづく内容です。第三者による効果検証の記述は確認できていません

よくある質問

Q. 損保ジャパンはAIで人を減らしたのですか?

出典に人員削減の記載はありません。発表文が繰り返し述べているのは「社員の生産性向上」であり、創出された時間を「お客さまへのより良い商品・サービスの提供」に使うという方向性です。

Q. 中小企業がこの事例から最初に真似すべきことは何ですか?

AIが対応できる問い合わせの範囲を先に区切ることです。損保ジャパンは「全体の約6割相当」という条件をつけたうえで効果を公表しています。自社の問い合わせを「定型で回答できそうなもの」と「個別対応が必要なもの」に分けるところから始めると、無理のない目標が立てられます。

Q. 「約4割の業務時間削減」という数字はどこまで信用できますか?

自社発表であり、対象を絞った条件つきの数字である点を理解して読む必要があります。ただし、全体を誇張せず「回答可能な照会に対して」と明記している点は、他社の発表と比べても慎重な書き方です。数字の規模より、対象範囲を正直に示す姿勢に学ぶ価値があります。

Q. なぜ2023年の開発開始から全国展開まで1年半以上かかったのですか?

出典からは、リスク評価テストの開始(2023年8月・公表は同年10月25日)と約1,000名規模のトライアル(2024年10月〜)を経てから全国展開(2025年6月)に至る流れが確認できます。生成AIの誤回答リスクを軽減する「ヒューマンインザループ」設計を組み込むうえで、段階を踏んだ検証が必要だったと読めます。

Q. このシステムは社外のお客様対応にも使われていますか?

出典で説明されているのは、代理店・営業店・本社間の社内照会への活用です。お客様への直接対応(コールセンター等)にAIを導入した事例としては、別会社ですが東京海上日動の事例(本サイト掲載)が参考になります。

出典

出典と、その読み方

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