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広告投資の20%、Googleでは58%がAIキャンペーンに|ロレアル(L'Oréal)の事例

公開 2026-09-17 / 約16

2025年12月にGoogle上で実施したキャンペーンのうち「AIキャンペーン」が占めた割合(前年同月比+14ポイント/L'Oréal 2025年次報告書・2026年3月18日にAMFへ提出)

58%

出典:決算・年次報告2026-03-18時点)

地域
🇫🇷 フランス(海外)
業種
化粧品・消費財
AI化した領域
マーケティング素材の生成AI化/広告投資配分の最適化/生成AIの全社定着/生成エンジン最適化(GEO)への対応
出典の種別
決算・年次報告/報道

世界のマーケティングの最先端は、すでに「AIを試す」段階を通り過ぎています。世界4位の広告主であるロレアルは、2025年の年次報告書で、デジタルプラットフォームへの広告投資の20%をAIキャンペーンが占め、2025年12月時点ではGoogle上のキャンペーンの58%(前年同月比+14ポイント)に達したと開示しました。

しかもこれは、広告の出し方だけの話ではありません。マーケティング素材は社内の生成AIコンテンツ工房CreAItechがつくり、投資配分は自社ツールBETiqが9カ国で最適化し、社内向け生成AI「LOREAL GPT」は7万1,000人が使っています。さらに、検索対策をAIの生成回答対策(GEO)へ広げるタスクフォースが2025年に30本の検証を回しました。そして何より、この進み具合そのものが役員報酬の評価項目として取締役会に採点されています。「マーケティングの仕事のつくり方が入れ替わった」と言える地点まで来た事例を、出典と発表日つきで整理します。

この事例の要点

  • AIキャンペーンが2025年のデジタルプラットフォームへの投資の20%を占め、2025年12月にはGoogle上のキャンペーンの58%(前年同月比+14ポイント)に到達(年次報告書・2026年3月18日AMF提出)
  • 社内の生成AIコンテンツ工房CreAItechは月間利用者4,000人超。年次報告書は、Googleの最新モデル「Nano Banana Pro」を組み込むことで月間49万5,000点超のマーケティング素材の制作を可能にしていると記載している(原文は "making it possible to produce")
  • 自社の投資最適化ツールBETiq を9カ国に展開し「ROIが段階的に改善した」と記載。国ごとの事情を織り込んで配分を出すBETiq Scalerも新たに投入。BETiqプログラムでは1,000人超が研修を受講
  • 社内生成AI「LOREAL GPT」の2025年の利用者は7万1,000人、社員が自作した専用アシスタント「MyCompanion」は1万個超。「GenAI for all」eラーニングの受講者は6万5,300人(2024年は4万1,700人)
  • 検索最適化(SEO)から生成エンジン最適化(GEO)へのタスクフォースが2025年に30本のパイロット検証を実施。2026年6月にはOpenAIと提携し、自社の商品情報をChatGPTの基盤モデル側へ直接提供するところまで踏み込んだ(報道)
  • AI・デジタルの進捗が役員報酬の評価項目になっている。「デジタル開発」基準はウェイト7.5%で、2026年3月5日の取締役会が2025年実績を115.4%(上限到達)と採点した

どんな会社か

ロレアル(L'Oréal)は、フランスに本社を置く世界最大の化粧品グループです。2025年12月31日時点の売上高は440億5,000万ユーロ(為替影響を除く比較可能ベースで+4.0%、公表ベースで+1.3%)、営業利益は88億9,200万ユーロ(+2.4%)、営業利益率は20.2%。従業員数は9万7,583人です(いずれも2025年通期決算・年次報告書)。

マーケティング企業としての規模も重要です。年次報告書によれば、ロレアルは世界で4番目に大きい広告主(Comvergence調べ/2025年上期のシェア・オブ・ボイスはオフライン・オンライン合計で20%)で、eコマースは133億ユーロ・グループ売上の30.2%(+12.7%)と、初めて3割の大台に乗りました。社内には8,000人超のデジタル・テック・データの専門人材がいます。

つまりこの事例は、「AIを導入した会社」ではなく、広告とコンテンツを世界規模で回し続けることが本業そのものである会社が、その本業の回し方を組み替えた話として読むのが正確です。

何が課題だったのか

年次報告書と報道から読み取れる課題は、規模の問題に集約されます。40前後のブランドを抱え、国・言語・プラットフォーム(TikTok、Instagram、Amazon、小売各社のサイト…)ごとに違う素材が要る。同じ商品でも、出し先の数だけ作り直しが発生します。

西欧地域CMOのマーク・ラルマン氏は、2025年6月のShopTalk Europeでこう述べています(Glossy報道)。

以前はキャンペーンの立ち上げに数週間かかっていました。いまは数時間でやっています。

同氏は「これはもう実験ではありません。マーケティングの変革です」とも述べています。裏返せば、制作のリードタイムそのものが、打てる施策の数の上限を決めていたということです。

もう一つは、広告投資の配分です。世界4位の広告主にとって、どの市場のどの接点にいくら置くかは巨額の意思決定ですが、判断材料は市場ごとにばらばらでした。年次報告書は、自社ツールBETiqを「マーケターの知見とAIによるデータを統合し、広告・販促投資を最適化するプログラム」と説明しています。

何をAI化したのか

領域施策と公表値
コンテンツ制作CreAItech(社内の生成AIコンテンツ工房)。月間利用者4,000人超・登録利用者4,500人。GoogleのNano Banana Proを組み込み、月間49万5,000点超の素材制作を可能にしていると記載。Google・Adobe・NVIDIA等のモデルを差し替えて使える設計
広告投資の配分BETiq を9カ国へ展開し「ROIが段階的に改善」と記載。国別事情を織り込むBETiq Scalerを新規投入。1,000人超が研修を受講
消費者接点Beauty Genius(AIパーソナルアシスタント)が米国で100万回の対話を記録し、WhatsAppへ拡大中。ロレアルが出資するNoliは英国でLLMベースの「Noli AI Advisor」を投入
消費者理解One Intelligence(AIを組み込んだ全社の消費者インテリジェンス基盤)。10万点超のドキュメントを収録し、利用者2,000人
社内業務LOREAL GPT 利用者7万1,000人(2025年)。社員が自作した「MyCompanion」1万個超。「GenAI for all」eラーニング受講6万5,300人
検索・AI回答対策SEO→GEO タスクフォースが2025年に30本のパイロット検証。2026年6月にOpenAIと提携し、商品情報をChatGPTの基盤モデルへ提供する枠組みへ(報道)
媒体社との組み方Google・Meta・Amazon・TikTok・Snapchat、2025年からはNetflixとも「Joint Media Business Plans」を締結し、AI活用型の広告やWhatsApp Commerceなどを共同で開発

効果として報じられている数字もあります。Digiday(2026年6月19日)によれば、ニコラ・イエロニムスCEOは通期決算説明会で、CreAItechによって制作コストが40%下がり、社員がこの一連のツールで5万点のマーケティング素材をつくったとアナリストに説明しました。同記事はまた、2025年のテクノロジー投資が約15億ユーロ規模であること、世界のマーケティング人員が1万人であること、年間50万人のインフルエンサー・クリエイターと仕事をしていることも伝えています。

なぜここまでできたのか

ロレアルの公表値。2025年12月にGoogle上のキャンペーンの58%がAIキャンペーン、2025年のデジタル広告投資に占めるAIキャンペーンは20%、社内生成AI LOREAL GPTの利用者は7万1,000人、投資最適化ツールBETiqの展開は9カ国、SEOからGEOへの検証は30本
ロレアルの公表値。2025年12月にGoogle上のキャンペーンの58%がAIキャンペーン、2025年のデジタル広告投資に占めるAIキャンペーンは20%、社内生成AI LOREAL GPTの利用者は7万1,000人、投資最適化ツールBETiqの展開は9カ国、SEOからGEOへの検証は30本

公表資料から読み取れる要因は、派手な技術ではなく運用の型のほうにあります。

第一に、素材づくりの入口を1つにまとめたこと。 CreAItechは「AIツールを入れた」のではなく、モデルを差し替えられる共通の工房としてつくられています。Googleの最新モデルが出ればそれを組み込み、2026年にはOpenAIのモデルも加える。デジタル・マーケティング責任者のアスミタ・デュベイ氏は「モデルにはそれぞれ得意分野がある。テキストから画像への描画が非常に優れているので、OpenAIの画像モデルを足したい」と述べています(Digiday)。ツール選びを個人任せにせず、入口を1本にしたから、モデルの世代交代が現場の作業を壊さないという構造です。

第二に、使う人の数を先に増やしたこと。 「GenAI for all」の受講者は2024年の4万1,700人から2025年に6万5,300人へ増えています。年次報告書は、ツールの配布と研修を必ずセットにする方針を明記し、「社員が反復作業の時間を節約できる“アシスタント”を持てるようにする」と説明しています。社内で1万個超のMyCompanionが自作された事実は、使い方を本部が決めきらなかったことの結果でもあります。

第三に、進み具合を経営の採点表に載せたこと。 これが最も真似しにくく、最も効いている部分です。ロレアルの役員報酬には「デジタル開発」という評価基準がウェイト7.5%で置かれ、2026年3月5日の取締役会が、eコマース比率・AIキャンペーン比率・CreAItechやBETiqの利用状況といった指標を根拠に115.4%(上限到達)と採点しています。AI活用が「情シスやマーケの努力目標」ではなく、取締役会が毎年、数字で評価する対象になっている、ということです。

第四に、やらないことを先に決めたこと。 年次報告書は「ロレアルは、製品の効能を訴求するために人間に似せたAI生成のモデルを使用しない」と明記しています。生成AIを美容の広告に使う以上、どこまでを機械に任せるかを先に線引きしておく必要があった、という判断です。

中小企業が真似できる3点

① AIの使用状況を、月次の経営数字の隣に置く。 ロレアルがやったのは、取締役会の評価表にAI・デジタルの指標を載せることでした。会社の規模に関係なく同じことはできます。「今月、社内でAIを使った人は何人か」「見積・提案・問い合わせ対応のうち何件でAIを通したか」を売上や受注数と同じ表に並べるだけで、AI活用は「気づいた人がやること」から「見られている数字」に変わります。

② 素材づくりの入口を1つにする。 社員が各自でツールを契約して各自のやり方で使っている状態は、モデルが新しくなるたびに全員がやり直します。共通のひな型・共通のプロンプト置き場を1カ所つくり、そこだけを更新する。ロレアルがCreAItechでやったのは、規模こそ違えどこの構造です。

③ 検索対策を「AIの回答対策」まで広げる。 ロレアルは2025年にSEO→GEOのタスクフォースで30本の検証を回し、翌年にはOpenAIへ商品情報を直接提供する契約まで進めました。中小企業でも、「自社名・自社サービス名をChatGPTに聞いたとき、何と答えられているか」を月1回記録するところから同じ土俵に立てます。買い手が検索エンジンではなくAIに聞く割合が増えるほど、ここは効いてきます。

当社もこの3点目を自社で実践しており、自社サービス名でAIがどう答えるかを毎月記録して、公開ページの書き方に反映しています。本記事のような事例の整理も、その一環として続けているものです。

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注意して読むべき点

  • 「AIキャンペーン」の定義は年次報告書に書かれていません。 原文は "AI campaigns accounted for 20% of investment on digital platforms in 2025, and 58% of campaigns on Google in December 2025. (up 14 pts vs. Dec. 24)" です。何をもってAIキャンペーンと数えたか(AI型の配信商品を使ったか、素材がAI生成か等)は示されていないため、他社の数字と直接は比べられません
  • CreAItechの制作量は、同じ会社の公表のなかで10倍の開きがあります。年次報告書は「月間49万5,000点超の制作を可能にしている(making it possible to produce)」と書いており、実際に制作した点数とは明記されていません。一方、報道が伝えたCEOの決算説明会での説明は「5万点の素材をつくった」でした。集計の範囲も期間も公表されていないため、本記事ではどちらも代表数値に採用していません
  • 「制作コスト40%減」は報道が伝えたCEO発言であり、算定根拠・対象範囲・比較時点は公表されていません
  • BETiqの効果は「ROIが段階的に改善」という記述のみで、数値は開示されていません。Glossyが報じた広告自動化ツールTidalの「メディア効率22%向上・キャンペーン効果14%改善」は、2023年に北欧で展開した際の同社の社内ベンチマークであり、第三者の検証を経たものではありません
  • 役員報酬の「115.4%」は、取締役会による報酬評価の達成率であって、AI活用の投資対効果を測った指標ではありません。上限が115.4%に設定されているため、上限に張り付いたという読み方が正確です
  • AI活用による人員削減や、全社のコスト削減総額は公表されていません。 逆に報道によれば、同社は節約できた時間をマーケティング活動へ再投資しているとしています
  • 本記事の中心的な数字は、いずれもロレアル自身の開示(AMFへ提出した年次報告書・決算発表)にもとづくものです。年次報告書のうちサステナビリティ情報は法定の保証を受けますが、ここで引用したデジタル関連の指標は経営側が報告した値であり、監査済みの財務数値ではありません

よくある質問

Q. ロレアルはマーケティングの仕事をAIに置き換えたのですか?

置き換えではなく、制作と配分の手順にAIを通したという開示です。年次報告書には人員削減の記載はなく、報道によれば同社は節約できた時間をマーケティング活動へ再投資しています。世界のマーケティング人員は1万人規模とされ、社外の広告会社との取引も続いていると報じられています。公表されているのは「AIキャンペーンの比率」「社内AIの利用者数」「素材制作の能力」であって、置き換えた人数ではありません。

Q. 中小企業がこの事例から最初に真似すべきことは何ですか?

AIの使用状況を、売上と同じ表に載せることです。 ロレアルは役員報酬の評価基準にデジタル・AIの指標を置き、取締役会が毎年採点しています。社員数人〜数十人の会社なら、「今月AIを使った人数」「AIを通した見積・提案・問い合わせ対応の件数」を月次の数字の隣に1行足すだけで同じ構造がつくれます。ツールを増やすより先に、見る場所を決めるほうが定着します。

Q. 「Googleでのキャンペーンの58%がAI」とは、どういう意味ですか?

年次報告書の原文は「2025年12月時点でGoogle上のキャンペーンの58%(2024年12月比+14ポイント)」という記述で、何をAIキャンペーンと数えたかの定義は書かれていません。2025年通年では、デジタルプラットフォームへの投資の20%がAIキャンペーンだったとされています。増え方(1年で+14ポイント)は比較できますが、絶対値を他社と並べるのは適切ではありません。

Q. 公表された数字はどこまで信用できますか?

中心的な数字は、フランス金融市場庁(AMF)へ2026年3月18日に提出された年次報告書に記載されたもので、取締役会が2026年3月5日に役員報酬の評価材料として確認した指標です。この点で、単独のプレスリリースより手続きは重いと言えます。ただし、財務数値のような監査を受けた値ではなく、定義(AIキャンペーンとは何か、制作点数の数え方)は公表されていません。本記事では、同じ会社の公表のなかで10倍開きがあるCreAItechの制作点数を代表数値に採用していません。

Q. AIで作った画像を、広告にそのまま使っているのですか?

一部は使っていますが、線引きが明示されています。年次報告書には「製品の効能を訴求するために、人間に似せたAI生成のモデルは使用しない」と記載されています。CreAItechは背景の差し替えや各国・各プラットフォーム向けの展開に使われており、Glossyの報道では、同社のグループ・データ/AIエンタープライズアーキテクトであるアントワーヌ・カステックス氏がGoogleのインタビュー(2025年4月)で述べた「同じ商品カットを、日本庭園にもパリの街角にも、ほかのどんな舞台にも自然に置ける」という説明が紹介されています。

出典

出典と、その読み方

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