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全社員が1人100個のAIエージェントをつくり、2カ月半で250万個を超える|ソフトバンクの事例

公開 2026-09-16 / 約13

全社員が作成したAIエージェントの数(2025年6月開始〜8月末の約2カ月半・ソフトバンク自社発表)

250万超

出典:自社発表2025-12-04時点)

地域
🇯🇵 日本
業種
情報・通信
AI化した領域
全社員のAIエージェント作成/法人営業の提案準備の生成AI化/生成AI人材の育成・リスキリング/AI活用を前提にした人材の再配置
出典の種別
決算・年次報告/自社発表/報道

日本の大企業の最先端では、AIの社内活用がここまで来ています。ソフトバンクは2025年6月、全社員に「1人100個のAIエージェントを作る」というミッションを課しました。社長から新入社員まで、営業もエンジニアも広報も例外なしです。開始からわずか2カ月半ほどの8月末には、作成されたAIエージェントが250万個を超えました

しかもこれは、思いつきの社内キャンペーンではありません。その1年以上前から法人営業の現場では、50個のプロンプトを積んだ提案支援ツールが数千人に広がり、約半年後も定着率7割という状態をつくっていました。そして人事側では、生成AIで既存領域を効率化しながら、社員数をほぼ横ばいに保ったまま約1,000名を新領域へ動かしています。「AIを使わせる」ではなく「AIを使う会社に組み替える」ところまで進んだ事例を、出典と発表日つきで整理します。

この事例の要点

  • 2025年6月、ソフトバンクの全社員に生成AIを使える環境が用意され、1人100個のAIエージェントを作成することをミッションとした全社プロジェクトが開始。約2カ月半後の8月末に作成数は250万個超に到達した(自社発表・2025年12月4日)
  • 事務局の説明によれば、目標の期日までにほぼ全ての社員が1人100個を作成。プロジェクトのゴールは効果ではなく、「AIを使うことを、特別なことではなく日常の行動に変えよう」という文化づくりだったと明記されている
  • 終了後の2025年9月のアンケート(回答者9,207名)では、約9割が生成AIへの理解度が深まったと回答、約8割が今後業務で活用していくイメージができたと回答
  • 法人営業では、社員1人のアイデアから生まれた営業活動支援ツールを2名で要件定義・約2カ月で開発し、開発開始から3カ月後に法人営業部門全体へ展開完了7カテゴリ50個のプロンプトを備え数千人が利用、利用開始から約半年経っても定着率7割(自社発表・2024年5月10日)
  • 人事戦略としては、生成AIで既存領域を効率的に運営し新領域へ人を再配置する方針を掲げ、過去2年間で単体の社員数をほぼ横ばいに保ちながら約1,000名を新領域へシフトしたと統合報告書2025に記載

どんな会社か

ソフトバンク株式会社は、国内大手の通信事業者です。統合報告書2025のデータセクションによれば、従業員数は単体18,895人・連結55,070人(2025年3月31日現在)。2026年3月期は売上高7兆387億円(前年同期比8%増)、営業利益1兆426億円(同5%増)で、いずれも決算説明会要旨に記載された実績です。

この事例が参考になるのは、AI活用を「一部の先進部署の成功事例」で終わらせず、全社員の行動レベルまで一気に降ろしたプロセスが公開されている点です。数字の大きさそのものより、「どういう順番で、何を目標に置いたか」が読み取れます。

何が課題だったのか

法人営業の課題は、多くの中小企業とほぼ同じ形をしています。営業活動支援ツールを考案した西原万純氏(法人統括 西日本営業本部 ストラテジー&ソリューション開発室 室長)は、こう説明しています。

取り扱う商材が年々増加することで、ご提案の幅もどんどん広がり、商談の準備にかかる時間が増加傾向だったため、本来、増やしていきたい商談の機会や時間が減少傾向にありました。

扱う商品が増えるほど、1件の提案に必要な下調べが増える。結果として、売上をつくるはずの商談そのものに使える時間が減っていくという構造です。加えて「最近は商品そのものによる差別化が難しいため、コンサルティング力をさらに強化していく必要性も感じていました」とも述べています。

全社プロジェクトのほうの課題は別の性質のものでした。2025年2月3日にソフトバンクグループとOpenAIが企業向けAI「クリスタル・インテリジェンス」のパートナーシップを発表し、AI事業を本格化させるなかで、「AIを使いこなせる人材」の育成が課題として浮かび上がった、と自社発表に記載されています。売る側がAIを使えていない、という状態を先に解消する必要があった、という整理です。

何をAI化したのか

施策内容
全社AIエージェント作成プロジェクト2025年6月開始。全社員に生成AI環境を用意し「1人100個のAIエージェント作成」をミッション化。8月末に250万個超(自社発表・2025年12月4日)
法人営業の提案支援ツールAzure OpenAI Serviceのスターターパッケージを利用。「文書の要約」「商材学習済みBot」「企業・業界分析」など7カテゴリ50個のプロンプトをプリセットし、メニューから選ぶだけで実行できる(開始当初は3カテゴリ12プロンプト)
学習プログラムAIの基礎知識のeラーニング、AIエージェントの作り方セミナーを連日開催。各部門でも独自の支援施策
活用促進の仕掛けコミュニケーションツールでのAIエージェント共有、グループ横断の「生成AI活用コンテスト」、営業担当者同士のプロンプト評価コンテスト
人材の再配置生成AIで既存領域を効率化し、生成AI事業・国産クラウド事業などの新領域へ人を動かす。異動決定者に2〜3カ月の研修を行う「リスキリング型ジョブポスティング」を導入

ソフトバンクはこれらを「AI利活用基盤の整備」「生成AIの学習プログラムの提供」「活用促進施策」の3本柱として整理しています。

なぜここまでできたのか

ソフトバンクの公表値。2025年6月開始の全社プロジェクトは約2カ月半後の8月末に250万個超のAIエージェントを作成、2025年9月のアンケート回答者9,207名のうち約9割が理解度が深まったと回答。法人営業の提案支援ツールは7カテゴリ50プロンプトで数千人が利用し約半年後も定着率7割、人事は社員数をほぼ横ばいに保ったまま約1,000名を新領域へシフト
ソフトバンクの公表値。2025年6月開始の全社プロジェクトは約2カ月半後の8月末に250万個超のAIエージェントを作成、2025年9月のアンケート回答者9,207名のうち約9割が理解度が深まったと回答。法人営業の提案支援ツールは7カテゴリ50プロンプトで数千人が利用し約半年後も定着率7割、人事は社員数をほぼ横ばいに保ったまま約1,000名を新領域へシフト

最大の特徴は、最初の目標を「効果」ではなく「回数」に置いたことです。「業務を何時間減らせ」ではなく「1人100個作れ」。自社発表はその狙いを、「業務に限らず使ってみること」「とにかくAIに触れる機会を作り、AIエージェントの作成に慣れることや、作成する体験を通じて理解を深めること」と明記しています。効果を最初の目標にすると「効果が出せそうな業務がない人」が離脱しますが、回数なら全員が土俵に乗れます。

事務局の太田愛菜氏は、この設計を「全社員巻き込み型の“お祭り”のような施策」と表現し、「AIエージェントを作ってみようと思ってもらえるような“きっかけ”作りから、作成しただけで終わらないような施策を展開し」と説明しています。やらせるのではなく、やりたくなる状態をつくるところに施策の重心が置かれていたことがわかります。

もう1つは、現場が自分で作ったという点です。法人営業の提案支援ツールは外部ベンダーへの発注ではなく、1人の社員のアイデアから始まり、所属部署の2名で要件定義に着手し、途中から他部門とシステムエンジニアが加わって約2カ月で開発されています。西原氏は「正答率を上げるためのチューニングにかなり時間をかけましたね」と述べており、時間をかけたのは開発ではなくプロンプトの精度でした。

そして設計思想として重要なのが、プロンプトを利用者に書かせなかったことです。「メニューボタンからプロンプトを選択するだけで、簡単に実行ができ、回答を導き出すことができるのが特長」とあります。プロンプトを書けることを前提にせず、選ぶだけにした。約半年後も定着率7割という数字は、この「書かせない」設計と無関係ではないでしょう。

中小企業が真似できる3点

① 最初の目標を「効果」ではなく「回数」にする

ソフトバンクは「1人100個」という、効果とは無関係の回数を全社目標にしました。「AIで何時間削減したか」を最初に問うと、AIを使える業務を持っている人しか参加できません。まず全員が触る状態をつくり、効果を問うのはその後にする。社員数人の会社なら「1人10個」でも同じ効果が期待できます。

② プロンプトは書かせず、メニューから選ばせる

50個のプロンプトを事前に用意し、ボタンで選ぶだけにする。AI導入が止まる原因の多くは「何を書けばいいかわからない」であって、ツールの性能ではありません。自社の商材資料を読ませたBotと、よく使う10個程度のプロンプトを用意するだけでも、現場の利用率は大きく変わります。

③ 半年後の「定着率」を見る

ソフトバンクが公表したのは導入時の数字ではなく、約半年経った時点の定着率7割でした。導入直後は誰でも使います。見るべきは「作った数」ではなく「使われ続けているか」です。

この「最初は回数を追い、あとから定着を測る」という設計は、専任のAI推進担当を置きにくい会社ほど、外部の力を借りたほうが早く形になります。私たちAIリモートワーカーのようなサービスも、その選択肢の1つとして検討する余地があります。

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注意して読むべき点

  • 250万個は「作成された数」であって「使われている数」ではありません。自社発表自身が、社員コメントとして「数を作ることに集中してしまったので、今後は質の高いものを作りたい」を掲載しており、記事も「このプロジェクトは、ゴールではなく“始まり”です」と結んでいます
  • 削減時間・コスト削減額などの金額換算は、本記事で確認した資料には記載されていません。この事例で公表されているのは作成数・利用率・定着率であって、効果額ではありません
  • アンケートの回答者9,207名は、単体従業員18,895人(2025年3月31日現在)の約半数にあたります。回答しなかった社員の評価は含まれていません。また回収方法や回答の任意性は公表されていません
  • 「定着率7割」の定義(分母・「定着」とみなす利用の頻度)は公表されていません。また「通常AIツールは数カ月で利用率が2〜3割程度まで下がることが多い」という比較は、同社担当者が「と言われています」という形で述べたもので、出典のある統計ではありません
  • 「約1,000名を新領域へシフト」は過去2年間の累計であり、2025年6月開始の全社プロジェクトの成果として公表されたものではありません。両者の因果関係は本記事で確認した資料には記載されていません。なお自社発表には「1,000名以上がAIやクラウドなどの新たな領域に挑戦」という近い数字もありますが、統合報告書の数字と同一の集計かどうかは確認できていません
  • エンタープライズ事業の「クラウド・AI売上を2031年3月期に倍増」は目標であって実績ではありません(2026年3月期対比・決算説明会要旨)
  • 本記事の中心的な数字の出典は、いずれもソフトバンク自身の発表(オウンドメディア「ソフトバンクニュース」・統合報告書・決算説明会要旨)です。第三者による検証や監査を経た数値ではありません

よくある質問

Q. 「2カ月半で250万個」は、それだけの業務が自動化されたということですか?

いいえ。250万個は作成されたAIエージェントの数であり、稼働中の数でも、業務削減の量でもありません。ソフトバンク自身がこのプロジェクトの目的を「AIを使うことを、特別なことではなく日常の行動に変えよう」という文化づくりだと明記しており、社員コメントにも「数を作ることに集中してしまった」という声が掲載されています。効果の数字は本記事で確認した資料には公表されていません。

Q. 中小企業が最初に真似すべきことは何ですか?

「効果」ではなく「回数」を最初の全社目標にすることです。ソフトバンクは「1人100個のAIエージェントを作る」という、効果とは切り離した回数を掲げました。社員数人〜数十人の会社なら「1人10個」で十分同じ構造がつくれます。効果を最初に問うと、AIを使える業務を持っている人しか参加できず、全社の文化にはなりません。

Q. 公表された数字はどこまで信用できますか?

本記事の中心的な数字は、いずれもソフトバンク自身の発表(オウンドメディア・統合報告書・決算説明会要旨)にもとづくもので、第三者の監査を経た数値ではありません。特に「定着率7割」は算定の定義が公表されていません。一方で、作成数・アンケート回答者数(9,207名)・従業員数(単体18,895人・2025年3月31日現在)といった母数が具体的に示されている点は、読み手が自分で比率を確かめられる形になっています。

Q. 社内AIの「定着」はどう測ればいいですか?

ソフトバンクが公表したのは利用開始から約半年経った時点の定着率でした。導入直後の利用率は誰でも高く出ます。中小企業でも、「月に1回以上使った人の割合を、導入3カ月後と6カ月後に数える」程度の計測で十分に判断できます。作った数ではなく、使われ続けているかを見る、という点が要点です。

Q. AIで人を減らしたということですか?

本記事で確認した資料には、AI活用による人員削減の記載はありません。統合報告書2025には、生成AIで既存領域を効率的に運営し、生成AI事業や国産クラウド事業といった新領域へ人を再配置する方針が示されており、「過去2年間でソフトバンク単体の社員数をほぼ横ばいに保ちながら、約1,000名を新領域へシフト」と記載されています。総数を減らすのではなく、配置を動かすという整理です。

出典

出典と、その読み方

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