AIモデル800個超・350用途から2,000個超・430用途へ拡大、経済価値は約10億シンガポールドルに到達|DBS銀行の事例
公開 2026-09-15 / 約10分
AI・データ分析による経済価値(FY2025実績・DBS Annual Report 2025)。2024年9月時点でCEOが「2025年に10億シンガポールドル超」と見込みを公表していた
約10億シンガポールドル
出典:決算・年次報告(2026-02-09時点)
- 地域
- 🇸🇬 シンガポール(海外)
- 業種
- 金融(銀行)
- AI化した領域
- AI・データ分析の全社展開/生成AIアシスタントの社内提供/経済価値の定量開示/AI活用のガバナンス体制
- 出典の種別
- 決算・年次報告/自社発表
世界の金融最先端では、AI活用の規模がここまで来ています。シンガポール最大手のDBS銀行は、2024年9月時点でCEOが「800個超のAIモデルを350の用途で運用し、2025年には経済価値が10億シンガポールドルを超える見込み」と公表していました。その見込みは、2026年公表の年次報告書に「2,000個超のモデル・430超の用途で、経済価値約10億シンガポールドル」という実績として記載されています(見込みの「超」に対し実績の記載は「約」で、ほぼ見込み線での着地です)。しかもこの間、CEOは交代しています。「見込み」を掲げたCEOから引き継いだ後任のもとで、その数字が実績として実現した過程を整理します。
この事例の要点
- 2024年9月16日、当時のCEO Piyush Gupta氏が「800個超のAIモデルを350の用途で運用しており、2025年の測定された経済的インパクトは10億シンガポールドルを超える見込み」と公表(「ここ数年、逐次倍増してきた」という説明つき)
- 2026年公表の年次報告書(FY2025)では、「2,000個超のモデル・430超の用途で、経済価値約10億シンガポールドル」と記載。2024年に公表した見込みとほぼ同水準の実績
- この間、CEOは2025年3月28日の年次株主総会をもってPiyush Gupta氏からTan Su Shan氏へ交代。見込みを掲げた経営陣と、それを実績にした経営陣が異なる=特定の1人に依存した数字ではないことを示す事例
- 個人向け生成AIアシスタント「DBS-GPT」を全社で利用可能にし、年次報告書によれば従業員の3分の2が、ブレインストーミング・調査・文章作成・翻訳・要約に使っている
どんな会社か
DBS銀行(DBS Group Holdings)は、シンガポールに本拠を置く東南アジア最大級の銀行グループです。FY2025は総収入SGD 229億・税引前利益SGD 131億で、いずれも過去最高と年次報告書に記載されています。
この事例が参考になるのは、AI活用の規模を「モデル数」「用途数」「経済価値(金額)」という3つの指標で継続的に開示している点です。多くの企業がAI活用の「事例」は語っても、規模の推移を数値で追えるようにしている例は少なく、投資対効果を社外に説明する型として参考になります。
何が課題だったのか
AI活用の経済的インパクトを金額で対外公表するということは、目標未達のリスクも同時に背負うことを意味します。DBSは2024年9月の時点で「2025年に10億シンガポールドル超」という具体的な見込みを先に公表しており、これは達成できなければ即座に検証可能な「言い切り」でもありました。
加えて、AI活用を1人の経営者に依存させず、組織的な基盤として維持できるかという課題もあります。DBSはこの見込みを公表した翌年(2025年3月)にCEOが交代していますが、AIモデル数・用途数はその後も拡大を続けています。年次報告書も「トップの交代にもかかわらず、長年の戦略的優先事項は変わっていない」と明記しています。
何をAI化したのか
| 施策 | 内容 |
|---|---|
| AIモデルの全社展開 | 2024年9月時点で800個超のモデル・350の用途。FY2025年次報告書では2,000個超のモデル・430超の用途に拡大 |
| DBS-GPT | 個人向け生成AIアシスタント。全社で利用可能にし、従業員の3分の2がブレスト・調査・文章作成・翻訳・要約に利用(FY2025年次報告書) |
| DBS Joy | 法人・中小企業の顧客向け生成AIチャットボット。2025年7月以降、2万社超のユニーク顧客が利用し、顧客満足度スコアの改善に寄与したと記載 |
| コーディング支援 | データサイエンティストが生成AIコーディングアシスタントを利用。一部のコーディング作業で所要時間を最大20%削減 |
| 経済価値の定量開示 | AI・データ分析による経済価値を金額(シンガポールドル)で公表 |
| ガバナンス基盤の整備 | 2024年9月時点でCEOは、AIの取り組みの中で築いたインフラとガバナンスの枠組みが「生成AIの可能性を引き出しつつ新たなリスクを管理する土台になっている」と説明 |
なぜここまでできたのか

「見込みを先に言い切り、後から実績で裏づける」という開示の型が、この事例の特徴です。2024年9月の時点でCEOは「2025年に10億シンガポールドル超」という具体的な数字を公表しており、後から検証可能な形でコミットしています。2026年の年次報告書でこの見込みが実績として確認できたことは、AI投資の効果を「言うだけ」で終わらせない開示姿勢を示しています。
もう1つの特徴は、この数字が特定の経営者に紐づいていないことです。見込みを公表したのはPiyush Gupta氏でしたが、実績を出したのはTan Su Shan氏が率いる経営陣です。AI活用を個人の旗振りではなく、組織のインフラとガバナンスとして根づかせていたことが、経営交代をまたいでも数字が伸び続けた背景にあると考えられます。
年次報告書の記述を見ると、全社共通で使える「横(horizontal)」の用途と、業務ごとの「縦(vertical)」の用途を並行して広げた、とあります。全社員が使えるDBS-GPTのような横の道具と、DBS Joyのような特定業務に刺さる縦の道具を、どちらか一方に寄せずに進めた形です。
中小企業が真似できる3点
① AI活用の規模を、金額や件数で言い切る
DBSは「モデル数」「用途数」「経済価値」という具体的な数字で規模を示しています。「AIを活用しています」で終わらせず、規模を数字で示すことは、社外への説明力を高めるだけでなく、社内で次に何を伸ばすべきかを可視化する効果もあります。
② 全社共通の道具と、業務特化の道具を両方そろえる
DBSは全社員が使えるDBS-GPTと、法人顧客向けのDBS Joy、開発者向けのコーディング支援を並行して広げています。「全員が使える汎用ツール」だけでも「一部門の専用ツール」だけでも止まるという構造は、規模を問わず当てはまります。
③ 特定の1人に依存しない仕組みにする
CEOが交代しても数字が伸び続けたのは、AI活用がガバナンスとインフラという「仕組み」として根づいていたためと考えられます。推進役が1人に集中していないかを点検する視点は、中小企業にも当てはまります。
こうした「規模を数字で言い切る」「仕組みとして根づかせる」という発想は、専任のAI推進担当を置きにくい会社ほど、外部の力を借りたほうが早く回ります。私たちAIリモートワーカーのようなサービスも、その選択肢の1つとして検討する余地があります。
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- 「800個超のAIモデル・350の用途」は2024年9月16日時点、「2,000個超のモデル・430超の用途」はFY2025(2026年公表の年次報告書)時点の数字です。その間の推移を示す公表資料は、本記事の時点では確認できていません
- 「経済価値」の算出方法(収益押し上げ分・コスト削減分・生産性向上分の内訳や算定ロジック)は、本記事で確認した資料には記載されていません。第三者機関による監査を経た数値かどうかも確認できていません
- 2024年9月時点の「2025年に10億シンガポールドル超」はCEOによる見込みの発言であり、発言時点では実績ではありませんでした。FY2025年次報告書で「約10億シンガポールドル」という記載が実績として確認できています
- DBS-GPTの「従業員の3分の2」、DBS Joyの「2万社超」、コーディング時間「最大20%削減」は、いずれもDBS自身が年次報告書に記載した数字で、算定方法までは開示されていません。特に「最大20%」は一部のコーディング作業における上限値であり、全体の平均ではない点に注意が必要です
- 本記事の出典はいずれもDBSグループ自身の発表(ニュースルーム・年次報告書)です。第三者による検証や監査済みの数値ではない点に注意してください
よくある質問
Q. 「経済価値10億シンガポールドル」とは何の数字ですか?
DBSが自社のAI・データ分析の取り組みによって生み出したと説明している経済的な価値の総額です。具体的な算出方法(収益への寄与・コスト削減・生産性向上のどれをどう合算しているか)は、本記事で確認した資料には記載されていません。2024年9月時点のCEO発言では「測定された経済的インパクト」という言い方がされています。
Q. AIモデルの数が増えれば、それだけ成果も比例して大きくなるのですか?
本記事の出典からは、モデル数の増加と経済価値の増加の因果関係までは確認できません。実際、モデル数は800個超から2,000個超へと2倍以上になっていますが、経済価値は2024年9月時点の見込み「10億シンガポールドル超」に対しFY2025実績が「約10億シンガポールドル」で、ほぼ見込み線での着地です。モデル数・用途数・経済価値はいずれもDBSが公表している「規模の指標」ですが、1つのモデルがどれだけの価値を生んだかという内訳は開示されていません。
Q. 中小企業が最初に真似すべきことは何ですか?
AI活用の規模を数字で言い切ってみることです。DBSのように「モデル数」「経済価値」まで開示する必要はなくても、「何にAIを使っていて、それが何人にどれくらいの時間やコストとして効いているか」を社内で数字にしてみることが、次の投資判断の材料になります。DBSが出している「従業員の3分の2が使っている」という利用率は、中小企業でもすぐ数えられる指標です。
Q. 海外の銀行だからできたことでは?
CEOが交代しても数字が伸び続けた点がこの事例のポイントです。AI活用を特定の担当者や経営者の熱意に依存させず、仕組み(ガバナンスとインフラ)として根づかせるという発想は、業種や規模を問わず応用できます。
Q. この数字はいつ時点のものですか?
「800個超のAIモデル・350の用途、2025年に10億シンガポールドル超の見込み」は2024年9月16日のCEO発言時点、「2,000個超のモデル・430超の用途、経済価値約10億シンガポールドル」はFY2025(2026年2月9日発表の通期決算にもとづく年次報告書)時点です。
出典
- DBS Annual Report 2025 - Letter from Chairman & CEO(DBS Group・2026年2月9日発表のFY2025決算にもとづく年次報告書)
- Harvard Business School examines DBS' AI strategy and implementation in its first case study focusing on AI in an Asian bank(DBS Newsroom・2024年9月16日)
- Tan Su Shan appointed as Deputy CEO(DBS Newsroom・2024年8月7日/2025年3月28日の年次株主総会でのCEO交代を公表)
出典と、その読み方
- 決算・年次報告2026-02-09DBS Annual Report 2025 - Letter from Chairman & CEO(会長 Peter Seah・CEO Tan Su Shan)
決算・IRの開示資料(監査済みの数値とは限らない)
- 自社発表2024-09-16Harvard Business School examines DBS' AI strategy and implementation in its first case study focusing on AI in an Asian bank(DBS Newsroom)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 自社発表2024-08-07Tan Su Shan appointed as Deputy CEO(DBS Newsroom・CEO交代の公表)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
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