AIリモートワーカー

全行員3万5,000人がChatGPTを日常業務で使う銀行へ|三菱UFJ銀行の事例

公開 2026-09-11 / 約14

ChatGPT Enterpriseを日常業務で利用できるよう順次展開する三菱UFJ銀行の全行員数(2026年1月以降)|2025年11月12日発表の自社プレスリリース

約35,000人

出典:自社発表2025-11-12時点)

地域
🇯🇵 日本
業種
金融(銀行・メガバンク)
AI化した領域
法人営業の提案ナレッジ共有/融資稟議のドラフト作成/全行員への生成AI展開/リテール顧客接点のAI化/コールセンターのAI活用
出典の種別
決算・年次報告/自社発表

日本の最先端では、銀行の仕事はここまでAIに置き換わっています。三菱UFJ銀行はOpenAIと戦略的なコラボレーション契約を締結し、2026年1月以降、全行員約35,000人がChatGPT Enterpriseを日常業務で利用できるよう順次展開すると2025年11月12日に発表しました。対象は社内文書作成・調査対応・顧客対応・分析業務まで及びます。

数字は決算の場にも出ています。2026年5月19日の2025年度決算 投資家説明会の資料には、AI業務実装件数・期待効果・投資額・AI専門人材が累計の推移として1ページにまとめて開示されており、見出しは「AIネイティブな企業への変革は計画を超えて進捗」でした。法人営業では提案ナレッジを組織知に変える「提案書データレイク」が動き、リテールではChatGPTとの会話の中で口座残高を確認できるサービスも始まっています。何がどこまで進んだのかを、出典と時点つきで整理します。

この事例の要点

  • 2026年1月以降、三菱UFJ銀行の全行員約35,000人がChatGPT Enterpriseを日常業務で利用できるよう順次展開(2025年11月12日発表)。2024年10月の発表以降の実証と製品仕様のアップデートを踏まえ、実証段階から本格的な運用段階へ移行すると明記されている
  • 2026年5月19日の決算説明会資料では、AI業務実装件数(累計)が2024年度74件→2025年度195件期待効果(累計)が2024年度40億円→2025年度207億円AI専門人材(銀行累計)が164人→231人と開示。中期経営計画の最終年度である2026年度は、当初計画250件に対し142件の上振れを見込むとされている
  • 法人営業では、大企業向けの提案ナレッジを行内で共有する「提案書データレイク」を稼働。鍵は「顧客情報のマスキング」と「自動タグ付け」で、分厚い提案資料から必要なスライド単位でAIが探して提示する機能もリリース済み(2025年12月15日公開の自社DX記事)
  • 融資では、Sakana AIと協働した特化型AIエージェント「AI融資エキスパート」を開発中。行内の暗黙知をAIに投入し、稟議書ドラフト作成を含む融資関連の営業活動を支援する(2026年5月19日の決算説明会資料)
  • 独自の対話型AI「AI-bow」は2023年4月のキックオフから同年11月に全行で利用開始。本部内の利用率はリリースから8ヵ月で3倍以上に伸びた(2025年10月21日公開の自社DX記事)
  • 全社AI浸透運動「Hello, AI @MUFG」はMUFG全社15万人が対象。2025年度はグループ41社から延べ1.3万名以上が参加し、プロンプトチャレンジ(25年7月)、レベルアップ型学習コンテンツ(25年11月)、生成AIコンペティション(26年2月)を実施
  • リテールでは2026年5月28日から「Apps in ChatGPT」を通じた金融体験の提供を開始。ChatGPT上でMoneytreeアカウントを連携し、自然な言葉で口座残高や取引明細を確認できる
  • 「Ai Workforce」の行内展開によって、当行全体で年間20万時間の業務量削減をめざす目標であって実績ではない・2025年12月15日公開の自社DX記事)

どんな会社か

三菱UFJ銀行は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の中核となる日本のメガバンクです。

グループ全体では、全社AI浸透運動の対象を15万人と自社プレスリリースに記載しています。

この事例が中小企業にとって参考になるのは、規模の大きさよりも「何を数字にして開示したか」のほうです。

AI活用の進捗を、実装件数・期待効果・投資額・専門人材という4つの累計値で決算資料に載せています。

社内でAI活用を進めるときに何を測ればいいのかが、そのまま形になっている事例だといえます。

何が課題だったのか

法人営業の課題は、公式のDX記事に当事者の言葉で残っています。

コーポレートバンキング企画部の秋好颯太氏は、大企業の顧客が抱える課題は多種多様で提案内容も個社に特化するため、

「担当するお客さまが違うと蓄積されるナレッジもまったく違うものとなり、個人や部署において閉じたものとなって、組織知とはなりにくい」という課題があったと述べています。

過去に解決へ取り組んだこともあったものの、必要な情報の検索性やアクセス性が十分ではなく、思うようにナレッジシェアの仕組みがつくれなかったといいます。

推進側の難しさも公開されています。

デジタル戦略統括部の中山智博氏は、金融機関でAIを推進する最大の難しさは「信用第一」という価値観に基づく厳格なリスク評価プロセスにあると述べ、

サイバーセキュリティ・コンプライアンス・AI固有のリスクを多角的に審査する第二線の部署の存在を挙げています。

同部の森脇崇仁氏は、ルールをつくって勉強会を実施しても部署や職種によって反応が大きく異なることを課題として語っています。

何をAI化したのか

決算説明会資料は、AIの業務実装例を「事業モデルの変革」「社員の働き方改革」「データドリブン営業」の3つに分けて整理しています。

施策内容出典と時点
ChatGPT Enterpriseの全行員展開2026年1月以降、全行員約35,000人が日常業務で利用できるよう順次展開。社内文書作成・調査対応・顧客対応・分析業務など自社発表(2025-11-12)
提案書データレイク大企業向け法人営業の提案ナレッジを行内で共有。顧客情報のマスキングと自動タグ付けが鍵。分厚い提案資料からスライド単位でAIが探して提示する機能もリリース自社DX記事(2025-12-15)
AI融資エキスパート(特化型・Sakana AIと協働)行内の暗黙知をAIに投入し、稟議書ドラフト作成を含む融資関連の営業活動を支援。開発中と記載決算説明会資料(2026-05-19)
Jinba(汎用型)チャットボットに自然言語で指示すると、組織横断を含めた定例業務(資料作成等)を効率化するワークフローをAIが作成。行内システムとも接続予定決算説明会資料(2026-05-19)
AI-bowChatGPTをベースにMUFGが独自開発した対話型AI。チャット、議事録作成、翻訳、アイデアの壁打ち、Excelマクロ作成など自社DX記事(2025-10-21)
コールセンター(対法人・個人)「事業モデルの変革」に分類されたAI業務実装例決算説明会資料(2026-05-19)
データドリブン営業提案書生成、音声記録化決算説明会資料(2026-05-19)
Apps in ChatGPT連携ChatGPT上でMoneytreeアカウントを連携し、自然な言葉で口座残高や取引明細を確認できる。2026年5月28日提供開始自社発表(2026-05-28)

なぜここまで進んだのか

三菱UFJ銀行・MUFGの公表値。ChatGPT Enterpriseを順次展開する全行員は約35,000人、AI業務実装件数は2025年度累計195件、AI専門人材は銀行累計231人、Hello, AI @MUFGはグループ41社から延べ1.3万名以上が参加
三菱UFJ銀行・MUFGの公表値。ChatGPT Enterpriseを順次展開する全行員は約35,000人、AI業務実装件数は2025年度累計195件、AI専門人材は銀行累計231人、Hello, AI @MUFGはグループ41社から延べ1.3万名以上が参加

いちばん効いているのは、進捗を「測れる形」にして外に出したことだと読めます。

決算説明会資料のAI戦略のページは、実装件数・期待効果・投資額・専門人材の4つを同じ形式の棒グラフで並べ、

2024年度・2025年度・2026年度を横に置いています。

社内でしか通じない「活用が進んでいます」ではなく、投資家に説明できる単位まで指標を落としているわけです。

しかも投資額と人材(=コスト側)を、期待効果(=リターン側)と同じページに並べています。

もう1つは、現場起点でプロダクトを決めていることです。

提案書データレイクの開発では、毎日のように提案書を作成している営業担当者にデモを見せ、

その感想と改善点をパートナー企業へフィードバックする進め方を取っています。

同じ営業担当者に三度インタビューしたケースもあったと秋好氏は述べており、

最近リリースされた「スライド単位で探して提示する」AIエージェント機能も、

「営業担当者が必要なのは提案書全体ではなくてスライド単体であるケースも多い」という現場の声から生まれたものだと説明されています。

デジタル戦略統括部の牧真央氏は、「われわれの目的はAIエージェントを導入することではなく、あくまで現場の課題解決に貢献したいというところが出発点」と語っています。

導入すること自体を成果にしていない、という順序がはっきり言語化されています。

3つ目は、浸透を「イベント」として設計したことです。

Hello, AI @MUFGは、AIに触れる(プロンプトチャレンジ)→活用の雰囲気を醸成する(外部企業COOとの対談動画配信)→活用レベルを引き上げる(レベルアップ型学習コンテンツ)→さらなる活用を探求する(生成AIコンペティション)という段階を、

2025年7月から2026年2月まで順番に置いています。

研修を1回やって終わりではなく、難度を上げながら年間を通して打ち続ける設計です。

中小企業が真似できる3点

① AI活用の進捗を「4つの累計値」で置く

実装件数・期待効果・投資額・専門人材。

この4つを並べると、「効果が出ています」という話が、いくら使っていくら返ってきたかという説明に変わります。

規模が小さくても、件数と時間と費用の3つだけなら今日から数えられます。

② 現場の担当者に「三度」聞く

提案書データレイクは、営業担当者へのインタビューとデモのフィードバックで機能が決まっています。

ツールを選んでから現場に配るのではなく、現場に聞いてから何を作るかを決める順序は、規模に関係なく再現できます。

③ 浸透施策を段階で組む

触れる→雰囲気をつくる→レベルを上げる→競わせる、という4段階が、7ヶ月かけて置かれています。

1回の研修で終わらせず、難度の違う施策を数ヶ月おきに置くほうが、利用率は伸びやすくなります。

この「測る指標を先に決めて、現場に聞いてから作る」という順序は、社内にAI活用の旗振り役がいない会社ほど難しくなります。

私たちAIリモートワーカーのようなサービスも、その担い手を外から補う選択肢の1つとして検討する余地があります。

ai-remote-worker.com AIリモートワーカー|営業・マーケのAI導入支援 営業・マーケティングのAI化を、月額定額または成果確認後払いで。実装まで踏み込む伴走型の支援です。

注意して読むべき点

  • 「全行員約35,000人」は、2025年11月12日時点で発表された展開方針です。原文は「2026年1月以降、(略)日常業務で利用ができるよう順次展開し」であり、全員が使い始めたことを示す実績値ではありません。なお2026年5月19日の決算説明会資料では、主なAI業務実装例として「生成AI拡充(ChatGPT Enterprise、Copilot)」が挙げられています
  • 決算説明会資料の「期待効果」は実績の利益額ではありません。注記に「今中計開始時を基準に、一定の前提およびロジックに基づき試算した財務効果(みなし効果を含む)。成長要因等は考慮せず、今後の環境変化や目標見直し等により変動の可能性あり」と明記されています
  • 同資料の「AI業務実装件数」は生成AIだけの件数ではありません。注記に「生成AI、機械学習、SaaS等を含めた数字」とあります
  • 2026年度の「当初計画250件に対し142件の上振れ」「当初計画300億円に対し87億円の上振れ」「当初計画600億円に対し119億円の上振れ」は、いずれも中期経営計画の最終年度に向けた見通しです。資料の本文も「今中計は当初計画比で上振れでの着地見通し」と書かれています
  • 資料の棒グラフは2024年度・2025年度・2026年度の3本で構成されていますが、各年度が実績か見通しかを1本ずつ明示するラベルは付いていません。本記事では、資料発表時点(2026年5月19日)で終了している2024年度・2025年度の数値を「開示された累計値」として扱い、2026年度のみ見通しとして記載しています
  • 「年間20万時間の削減」は目標です。原文は「その結果として当行全体で年間20万時間の業務量の削減をめざします」であり、達成済みの実績ではありません。また対象は「Ai Workforce」を行内に幅広く導入した場合の想定です
  • 「AI融資エキスパート」「Jinba」は、決算説明会資料に「開発中」「作成する」と記載された段階のもので、全行展開済みという記述はありません
  • 「本部内の利用率が8ヵ月で3倍以上」はAI-bowのリリースからの伸びであり、比較の起点となる利用率そのものは公開されていません。また本部内に限った数字で、支店を含む全行の数字ではありません
  • 本記事の出典はすべて同社グループの自社開示(プレスリリース・決算説明会資料・自社サイトのDX記事)です。第三者による検証や監査済みの数値ではない点に注意してください

よくある質問

Q. 三菱UFJ銀行の全行員はもうChatGPTを使っているのですか?

2025年11月12日の発表では、2026年1月以降、全行員約35,000人が日常業務で利用できるよう「順次展開」すると説明されています。全員の利用開始が完了したことを示す発表は、本記事の時点では確認できていません。

2026年5月19日の決算説明会資料には、主なAI業務実装例として「生成AI拡充(ChatGPT Enterprise、Copilot)」が挙げられています。

Q. 決算資料に載っている「期待効果207億円」は、実際に増えた利益のことですか?

いいえ。資料の注記に「今中計開始時を基準に、一定の前提およびロジックに基づき試算した財務効果(みなし効果を含む)」と明記されており、実績の利益額ではありません

自社が置いた前提での試算値として読むのが正確です。

Q. 中小企業が最初に真似すべきことは何ですか?

AI活用の進捗を数える指標を先に決めることです。三菱UFJ銀行は実装件数・期待効果・投資額・専門人材の4つを累計で並べています。

規模が小さければ「AIを使っている業務の件数」「かけた費用」「削減できた時間」の3つからで十分です。

数える単位が決まっていないと、成果が出ているのかどうかを社内で議論できません。

Q. 「年間20万時間の削減」はどこまで信用できますか?

これは目標として公表された数字です。出典であるMUFG公式サイトのDX記事(2025年12月15日公開)で、デジタル戦略統括部の担当者が「Ai Workforce」の行内展開の結果として「めざします」と述べたものです。

達成の実績値ではないため、他社比較や自社の試算根拠として使う場合は「目標値」であることを必ず添えてください。

Q. メガバンクだからできたことではないですか?

投資規模はたしかに桁違いですが、再現できるのは順序のほうです。

提案書データレイクは、営業担当者に繰り返しインタビューし、モックを見せて要件を詰めるという進め方で作られています。

また浸透施策は「触れる→雰囲気をつくる→レベルを上げる→競わせる」という4段階を7ヶ月かけて置いたもので、規模ではなく設計の話です。

どちらも数人の会社でも同じ形で回せます。

出典

出典と、その読み方

御社の場合は、どこから始めるか

事例をそのまま真似しても同じ結果にはなりません。業務の件数と体制が違うためです。30分の無料AI業務診断で、御社の業務を棚卸ししてA4一枚にまとめます。

無料AI業務診断を見る

ほかの事例