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営業ヒアリングで潜在ニーズを引き出す|仮説を「外してもらう」聞き方【2026年版】

佐々木 優希

佐々木 優希

上場企業 営業統括 & AI責任者

12分で読めます

目次
  1. この記事の要点
  2. ヒアリングが浅くなるのは、質問が「売りたいもの」から作られているから
  3. 顕在ニーズと潜在ニーズの違い|「営業を2人」の奥にあった課題
  4. 聞く前に仮説を持つ|商談の時間は「確かめる」に使う
  5. 仮説は「外してもらう」ために出す|推測だと名乗ってから見せる
  6. 1回で全部聞かない|2回目の前に「取れなかった項目だけ」聞く
  7. 「深掘りすると、尋問みたいになりませんか」への答え
  8. 聞いた内容が提案に届いたかを確かめる
  9. よくある質問

「営業を2人採用したいんです」

人材サービスの営業をしていた頃、お客様からこう言われたら、私は「では営業職を2人ご紹介します」と答えていました。依頼に正面から応えているので、間違ってはいません。実際、入社して3か月ほどは、この進め方で受注が取れていました。

ところが3〜6か月目に、まったく売れなくなりました。担当していた2,000社のリストのうち、もともと困っていた会社(顕在ニーズのある会社)からの受注を取り切ってしまったからです。残ったのは「困ってはいるが、何に困っているかをまだ言葉にしていない会社」でした。そこに同じ聞き方をしても、何も出てきません。

この記事では、ヒアリングで潜在ニーズを引き出す進め方を、この失速から立て直した経験と、いま当社が商談の前後でやっていること(推測しすぎて外した失敗を含む)をもとにまとめます。

この記事の要点

  • ヒアリングが浅くなるのは、質問が「売りたいもの」から作られているから。項目を全部埋めても、売りたいものの確認で終わる
  • 潜在ニーズは「依頼の奥にある、まだ言葉になっていない課題」。依頼はそのまま受け取ったうえで、その依頼で何を解決したいのかを聞く
  • 聞く前に仮説を持つ。事前リサーチはAIで商談準備30分→3分にできるので、商談の時間は「調べる」でなく「確かめる」に使う
  • 仮説は推測だと名乗ってから見せる。外れた所を「違う」と言ってもらうことが、いちばん深いヒアリングになる
  • 1回の商談で全部聞こうとしない。2回目の前に、取れなかった項目だけを短く聞く

ヒアリングが浅くなるのは、質問が「売りたいもの」から作られているから

結論から書くと、ヒアリングが浅くなる原因は質問の数ではなく、質問の出発点です。

「採用でお困りですか」「何名ほど必要ですか」「いつまでに必要ですか」。どれも正しい質問ですが、すべて「自社のサービスが合うかどうか」を確かめる質問です。私はこれを、自分のための聞き方(For Me)と呼んでいます。

For Meの聞き方は、顕在ニーズのある会社には効きます。相手がもう答えを持っているので、確認すれば受注まで進むからです。私が入社後3か月で受注できていたのも、このためでした。

一方で、潜在ニーズの会社には通用しません。相手がまだ課題を言葉にしていないのに、こちらは「うちのサービスが要りますか」と聞いている。相手は「今は大丈夫です」と答えるしかありません。

売れなくなった時期に周りを見直して気づいたのは、短期ではなく何年もトップであり続けている人は、全員がお客様の側から聞いていた(For You)ということでした。

For Meの聞き方For Youの聞き方
質問の出発点自社サービスが合うか相手が何を解決したいか
効く相手顕在ニーズの会社(もう答えを持っている)潜在ニーズの会社(まだ言葉になっていない)
典型的な質問「何名必要ですか」「予算はありますか」「その2名で、何が変わればよいですか」
起きること顕在層を取り切ると止まる紹介が広がる

顕在ニーズと潜在ニーズの違い|「営業を2人」の奥にあった課題

潜在ニーズとは、依頼の奥にある、相手もまだ言葉にしていない課題のことです。

冒頭の「営業を2人採用したい」を、深く聞いていくとどうなるか。ある会社では、本当の課題は「営業を採用しても、受注率を上げられる仕組みや人が社内にいない」ことでした。2人入れても、売り方を教えられる人がいなければ、2人とも同じところで詰まります。

そこで出した提案は、「営業2人の採用はそのまま進めつつ、まず営業の型を作れるマネージャー(営業の教育・仕組みづくりができる人)を1人入れる」という順番の入れ替えでした。依頼を否定したのではなく、依頼が叶ったときに何が起きるかを一緒にたどった結果です。

顕在ニーズと潜在ニーズの違い。言われたこと=営業を2人採用したい。奥にあった課題=採用しても受注率を上げられる仕組みや人が社内にいない。出した提案=営業の型を作れるマネージャーを先に1人入れる
顕在ニーズと潜在ニーズの違い。言われたこと=営業を2人採用したい。奥にあった課題=採用しても受注率を上げられる仕組みや人が社内にいない。出した提案=営業の型を作れるマネージャーを先に1人入れる
段内容聞くための質問
言われたこと(顕在)営業を2人採用したい―
その先の目的売上を伸ばしたい「2人入ったら、何がどう変わる想定ですか」
詰まりそうな所入った人が売れるようになる仕組みがない「今いる方は、どうやって売れるようになりましたか」
奥の課題(潜在)受注率を上げられる人・仕組みが社内にない「売れる人と売れない人の差は、どこで出ていますか」

このやり方に変えてから、提案を受けたお客様が別の会社を紹介してくださるようになりました。根本の課題に答えた提案は、相手が社内外で話したくなる提案だからだと考えています。

なお、この聞き方が要るのは人材の営業に限りません。SFA(営業支援システム)の営業をしていた頃は、比較サイト経由の「まだ情報収集の段階」のアポが多い中で、受注率は15%でした(社内の周りは8%程度)。温度の低いアポほど、相手が言葉にしていない部分を聞けるかで結果が分かれます。

聞く前に仮説を持つ|商談の時間は「確かめる」に使う

深く聞くには、会う前に仮説を持っておくことが前提です。仮説がないと、質問は一般論の確認になります。

仮説の材料は、相手の公開情報です。会社のサイト、プレスリリース、求人、上場企業ならIR資料。たとえば営業職の求人が3か月出続けているなら、「採用しても定着していないのでは」という仮説が立ちます。これを商談で確かめるのと、商談で初めて「採用は順調ですか」と聞くのとでは、出てくる話の深さが違います。

以前は、この下調べに1件30分かけていました。いまは商談がカレンダーに入ると、企業リサーチと仮説・質問案が自動で作られて届き、私は確認して商談に臨むだけです。

業務手作業当社の実測(自動化後)
商談準備(企業リサーチ〜提案骨子)30分3分
商談トークスクリプト作成30分5分

浮いた時間で増やしたいのは、商談の数ではなく仮説の数です。仮説を2つ3つ持って会えば、1つ外れても次で確かめられます。

この準備がいま一段と大事になっている理由は、買い手の側にもあります。Gartnerが2026年5月に発表した調査(B2B買い手n=645)では、69%の買い手がAIの出した答えを営業担当に確かめてもらっていると答えています。営業が関わった場合は「購買判断に確信が持てた」が32ポイント、「便益を数字で示してくれた」が21ポイント高くなっていました(Gartner発表の転載・Business Wire)。相手はもう一般的な答えを持って会いに来ます。営業に求められているのは、その答えがこの会社の場合に当てはまるかを一緒に確かめることです。

仮説は「外してもらう」ために出す|推測だと名乗ってから見せる

ここが、当社が実際に失敗した所です。

ある会社から問い合わせをいただいたとき、フォームに書かれていたのは「自社の商材名」と「狙いたい相手(従業員300名以上の企業)」の2項目だけでした。私たちはそこから相手の課題・目指す姿・ここまでの経緯を組み立て、提案ページに載せました。

社内レビューで返ってきたのは、「その情報だけで相手の課題を推測しすぎている。全然刺さらないと思う」という指摘でした。相手の言葉が1行しかないのに「御社が目指すべき姿」を書けば、それはこちらの想像を相手のゴールとして押しつけることになります。外れていたら、相手には自分の話に見えません。

そこで、進め方を2つ変えました。

  1. 相手の言葉がないうちは、内情に踏み込む部分を作らない。書くのは公開情報から言える事実まで。推測は社内向けの資料に置く
  2. 推測を見せるときは、最初にそう名乗る。「公開情報と、お問い合わせでいただいた内容、私の営業経験をもとに推測して作りました。外している所が必ずあるので、『ここは違う』と思われた所こそ伺いたいです」

2つめが、ヒアリングとして最も効きます。人は白紙の質問には答えにくくても、間違った仮説には訂正したくなります。「うちはそこではなく、こっちで困っている」という一言が、潜在ニーズそのものです。

仮説を外してもらうヒアリングの流れ。①公開情報から仮説を立てる ②推測だと名乗って見せる ③外れた所を聞く ④相手の言葉で書き直す
仮説を外してもらうヒアリングの流れ。①公開情報から仮説を立てる ②推測だと名乗って見せる ③外れた所を聞く ④相手の言葉で書き直す

注意したいのは名乗り方です。「何も伺えていないので」「公開情報だけで作りました」と書くと、手を抜いたように読まれます。やったこと(調べて丁寧に作った)を先に述べ、そのうえで推測だと明かす順番にします。

1回で全部聞かない|2回目の前に「取れなかった項目だけ」聞く

初回の商談は、時間の半分以上が自己紹介と相手の状況説明で終わります。そこで予算・決裁者・時期・比較先まで全部聞こうとすると、質問が尋問のように続き、肝心の課題の話が薄くなります。

当社では、初回の録画を自動で要約したうえで、2回目の前に、初回で取れなかった項目だけを提案ページ上で聞くようにしています。

決めごと内容理由
聞く項目初回の録画から取れなかったものだけ同じことを2度聞かない
形式選択式・「分からない」を常に用意答えられない質問で止めない
量最大7問・2分担当者が隙間時間で答えられる
立場で変える担当者/部長/経営者で別の質問担当者に決裁の基準を聞いても答えにくい

立場で質問を変えるのは、立場ごとに困っていることが違うからです。担当者には「1件あたりの準備時間」を、部長には「今年いちばん動かしたい数字」を、経営者には「外部の変化で気になっているもの」を聞きます。担当者から決裁者へ話を上げていく進め方は、決裁者へのアプローチ|担当者から合意を引き上げる3段で詳しく書きました。

この仕組みはまだ新しく、回答をいただいたのは1件だけです。効果を数字で語れる段階ではありません。それでも先に形にしたのは、「初回で聞けなかったことを、2回目の冒頭で慌てて聞く」という状態をなくしたかったからです。聞き漏れは、いつも2回目の提案の精度に響きます。

「深掘りすると、尋問みたいになりませんか」への答え

ここまで読んで、「そんなに質問を重ねたら、相手は嫌がるのでは」と思った方もいるはずです。

答えは、質問を重ねるから尋問になるのではなく、仮説なしに質問を重ねるから尋問になるです。「予算は」「時期は」「決裁者は」と項目を順に聞くと、相手は審査されている気分になります。一方で「求人が3か月出ているので、採用後の定着で困っていらっしゃるのかと思ったのですが、違いますか」と聞かれると、相手は自分のことを考えてくれたと感じます。質問の数は同じでも、受け取られ方が逆になります。

社内でも同じことが起きます。私は前職でAI化を進めたとき、「5年後の営業組織はこうなるはずだから、こう変えよう」と、上から方針として落としました。保守的な組織だったこともあり、一部のメンバーから反発が出ました。

やり直したのは、一人ずつ1on1で困りごとを聞くところからです。まずその人の困りごとをAIで片づけ、その延長で「こういうこともできると面白い」と広げていきました。結果として目指していた形には近づきましたが、相手の言葉を先に聞かなかった分だけ、遠回りをしたというのが正直な振り返りです。お客様でも社内でも、仮説は持っていても、先に出すのは相手の話です。

聞いた内容が提案に届いたかを確かめる

ヒアリングの最後の落とし穴は、聞いた内容が提案に反映されていないことです。せっかく潜在ニーズを聞き出しても、次の提案書が定型のままなら、相手には「聞いてもらえなかった」と映ります。

前職の営業組織では、商談の録画を自動で要約してSFAに入れ、さらに説明が足りなかった所を自動で見つけてマネージャーに通知する仕組みを入れていました。マネージャーは録画の該当箇所だけを確認し、追加の資料を送るか、次回に同席するかを決めます。この仕組みを含めて営業の進め方を組み直したチームでは、受注率が入社時の8%から平均45%まで上がりました(ヒアリングだけの効果ではなく、仕組み全体での数字です)。

いま当社では、初回の議事録から2回目の提案資料を作るときに、相手が実際に使った言葉をそのまま見出しに入れるようにしています。提案の中に自分の言葉を見つけた相手は、その提案を自分の話として社内に持っていけます。商談後にどう追いかけるかは、商談後のフォローは「反応」で決めるにまとめています。

よくある質問

Q. 営業のヒアリングで潜在ニーズを引き出すコツは何ですか?

会う前に相手の公開情報から仮説を立て、商談では「推測ですが」と名乗ってその仮説を見せることです。白紙で「お困りごとは」と聞くより、外れた仮説を訂正してもらうほうが、相手がまだ言葉にしていない課題が出てきます。

Q. 顕在ニーズと潜在ニーズの違いは何ですか?

顕在ニーズは、相手がすでに言葉にしている依頼(例:営業を2人採用したい)です。潜在ニーズは、その奥にある、相手もまだ言葉にしていない課題(例:採用しても売れるようにする仕組みが社内にない)です。依頼はそのまま受け取り、「それが叶ったら何が変わるか」を一緒にたどると見えてきます。

Q. BtoBのヒアリングでは、どんな質問をすればよいですか?

項目の一覧から始めるより、「その目的が叶ったら、何がどう変わる想定ですか」「今いる方は、どうやって売れるようになりましたか」のように、依頼の先と、詰まりそうな所を聞く質問が効きます。予算・時期・決裁者は、初回で全部聞かずに、2回目の前に取れなかった分だけ短く聞くほうが、課題の話に時間を使えます。

Q. ヒアリングにAIはどう使えますか?

当社では、商談がカレンダーに入ると企業リサーチと仮説・質問案が自動で作られ、商談後は録画の要約から次の提案資料の下書きまで自動で作られます。準備は1件30分から3分になりました。ただし、聞くこと自体はAIに任せていません。浮いた時間は仮説を増やすことに使っています。

Q. 情報がほとんどない段階で、提案を出してもよいですか?

出してよいですが、推測で作ったことを最初に名乗るのが条件です。当社は問い合わせフォームの2項目だけから相手の課題と目指す姿まで書いてしまい、「全然刺さらない」と指摘を受けました。いまは相手の言葉がないうちは公開情報から言える事実までに留め、推測は「違う所を教えてください」と添えて見せています。

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執筆・監修:佐々木 優希(上場企業 営業統括 兼 AI責任者)

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