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AIアシスタントが顧客とのやり取りを年6億回近く自律対応、3年弱で累計10億回超|ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)の事例

公開 2026-10-30 / 約13分

2025年の1年間に、バーチャルアシスタント「Fargo」が人を介さずにこなした顧客とのやり取りの回数(年次報告のCEOレター・2026年3月16日付)

6億回近く

出典:決算・年次報告(2026-03-16時点)

地域
🇺🇸 米国(海外)
業種
金融(銀行)
AI化した領域
カスタマーサポートの自動化/コンタクトセンターのオペレーター支援/社内業務の効率化/審査書類の作成支援
出典の種別
決算・年次報告/自社発表/報道

銀行の顧客対応は、ここまでAIに任せられるようになっています。米ウェルズ・ファーゴのバーチャルアシスタント「Fargo」は、2025年の1年間に人を介さずに6億回近く、顧客とのやり取りをこなしました(年次報告のCEOレター・2026年3月16日付)。2023年には年2,130万回だったものが、2024年には2億4,540万回に増え(報道・2025年4月8日)、提供開始から3年足らずで累計10億回を超えています(自社発表・2026年3月26日)。しかも、顧客の個人情報はAIの言語モデルに一切渡さない設計です。顧客向けのAIを広げながら、社員約19万人にもAIツールを配り、コールセンターの担当者を支えるAIエージェントまで動かし始めた経緯を、出典と発表日つきで整理します。

この事例の要点

  • バーチャルアシスタント「Fargo」は、2025年の1年間に人を介さずに6億回近く、顧客とのやり取りをこなした(年次報告のCEOレター・2026年3月16日付)
  • やり取りの回数は2023年の2,130万回 → 2024年の2億4,540万回。2024年の実績は当初見込みの2倍超だった(報道・VentureBeat・2025年4月8日)
  • 提供開始から3年足らずで累計10億回超。スペイン語を話す顧客も300万人超が1億6,000万回超利用した(自社発表・2026年3月26日)
  • 音声は社内で文字に起こし、個人情報を社内の小さな言語モデルで取り除いてから、用件の読み取りだけを外部の言語モデルに頼む設計(報道・2025年4月8日)
  • 社内では約19万人がMicrosoft Copilot Chatを使える状態にあり、約4万人はメールの効率化や文書の要約・検索にM365 Copilotも使っている。コールセンターや社内ヘルプデスクでは、電話担当者の定型作業をAIエージェントで自動化し始めた(年次報告のCEOレター・2026年3月16日付)

どんな会社か

ウェルズ・ファーゴは、米国を代表する大手銀行の1つです。2026年3月の発表文によれば総資産は約2.1兆ドル。2025年の年次報告では、年末時点で4,090の支店を持ち、モバイルアプリの利用者(過去90日にログインした顧客)は3,280万人、社員は世界で20万5,000人超と書かれています。

規模は中小企業とまったく違いますが、この事例の見どころは「定型の用件はAIが受け、人は判断が要る仕事に回る」という役割分担を、顧客向けと社員向けの両方で同時に進めている点にあります。

何が課題だったのか

年次報告は課題を「課題」として書いてはいませんが、CEOのチャールズ・シャーフ氏はCEOレターで、AIによって社員が顧客にとって価値の高い仕事により多く時間を使えるようにし、生産性も上げることを狙いに挙げています。裏返すと、振込や支払い、残高や取引内容の確認といった毎日大量に発生する定型の用件に、人の時間が取られている状態だったと読み取れます(ここは当社の読み取りです)。

もう1つの課題は、銀行ならではの個人情報の扱いです。外部の言語モデルを使うと、顧客の口座情報や個人情報がモデルに渡ってしまうおそれがあります。後述するように、同行はこの点を設計で解決してからFargoを広げています。

何をAI化したのか

公表資料に出てくる取り組みを、対象ごとに整理すると次のとおりです。

対象何をしているか公表された数字(出典・日付)
顧客(個人)「Fargo」が音声とテキストで、Zelleでの送金、支払い、口座番号(ルーティング番号)の確認、支出や残高の確認などを受け付ける2025年に人を介さず6億回近く(年次報告・2026-03-16)/累計10億回超(自社発表・2026-03-26)
スペイン語を話す顧客同じFargoをスペイン語で提供300万人超が1億6,000万回超利用(自社発表・2026-03-26)
社員全般Microsoft Copilot Chat を幅広い社員に配布。一部の社員はM365 Copilotでメールの効率化、文書の要約・検索、表計算の分析にも使う約19万人が利用可能、約4万人がM365 Copilotも利用(年次報告・2026-03-16)
社員(独自開発)複数の言語モデルを安全な環境で使い、独自のAIツールやエージェントを作れる社内基盤利用者 約2万5,000人、今後も拡大予定(年次報告・2026-03-16)
コールセンター・社内ヘルプデスクAIエージェントが電話担当者の定型作業を自動化効果の数字は非公表(年次報告・2026-03-16)
法人向け融資の審査審査の分析の一部と、これまで人が作っていた書類の作成をAIで自動化し、人は内容の確認と判断に集中効果の数字は非公表(年次報告・2026-03-16)
支店・営業・マーケティング部門Google Cloud のAIエージェントやツールを、支店の担当者、投資銀行の担当者、マーケティング担当、顧客対応チームなどに展開人数の記載なし(連名ブログ・2025-08-06)

Fargoの仕組みについて、同行のCIO(最高情報責任者)はVentureBeatの取材に対し、音声はまず社内で文字に起こし、個人情報を社内の小さな言語モデルで検出して取り除き、そのうえで用件と必要な項目の読み取りだけをGoogleの言語モデル(Gemini Flash 2.0)に頼むと説明しています。「機密データがモデルに届くことはない」というのが同行の説明です(報道・2025年4月8日)。

なぜここまでできたのか

ウェルズ・ファーゴの公表値。バーチャルアシスタント「Fargo」の顧客とのやり取りは2023年に2,130万回、2024年に2億4,540万回、2025年に人を介さず6億回近く。提供開始から3年足らずで累計10億回超。社内では約19万人がCopilot Chatを利用可能
ウェルズ・ファーゴの公表値。バーチャルアシスタント「Fargo」の顧客とのやり取りは2023年に2,130万回、2024年に2億4,540万回、2025年に人を介さず6億回近く。提供開始から3年足らずで累計10億回超。社内では約19万人がCopilot Chatを利用可能

1つ目の理由は、任せる範囲を「定型の用件」に絞ったことです。Fargoが受け持つのは、送金・支払い・口座番号の確認・支出や残高の確認といった、毎日大量に発生し、答えが決まっている用件です。範囲を絞ったからこそ、人を介さずに完結できる回数が年6億回近くまで伸びたと考えられます(ここは当社の読み取りです)。

2つ目は、個人情報を言語モデルに渡さない設計を先に作ったことです。CIOは取材で「前と後ろのフィルターは自分たちだ」と述べ、計算や個人情報の復元はすべて自社側で行うと説明しています。銀行がAIに顧客対応を任せるうえで一番の障害になる情報管理を、設計で先に解決したことが、大規模展開の前提になっています。

3つ目は、顧客向けと社員向けを並行して広げていることです。顧客向けのFargoと同時に、社内では約19万人にAIツールを配り、約2万5,000人が独自のツールやエージェントを作れる基盤を使っています。CEOは「ほぼ全員が最新のツールとモデルを管理された環境で使い、何ができるかを自分で学べるようにしたい」と書いています。社員がAIに慣れているからこそ、コールセンターや審査業務へのAIエージェントの導入にも進めていると考えられます。

なお、CEOはAIエージェントについて、人と人との関わりや専門性の置き換えではなく、補完するものと位置づけています。

日本の中小企業が真似できる3点

① 「答えが決まっている問い合わせ」からAIに任せる。 Fargoが受け持つのは送金や残高確認のような定型の用件です。中小企業でも、営業時間・料金・手続きの流れ・書類の送り先など、毎回同じ答えを返している問い合わせから始めると、AIが人を介さずに完結できる割合を上げやすくなります。

② 顧客情報をAIに渡す前に「何を渡さないか」を決める。 同行は、個人情報を社内で取り除いてから外部の言語モデルを使う設計にしました。中小企業が同じ仕組みを自前で作るのは難しくても、顧客名・連絡先・契約金額などを入力しないルールを先に決めるだけで、AI活用の範囲を安心して広げられます。

③ 社員がAIに触れる機会を先に作る。 同行は顧客向けのAIと並行して、約19万人にAIツールを配りました。中小企業でも、社内のメールの下書きや会議メモの要約など、社員が日常的にAIを使う場面を先に作っておくと、顧客対応や営業の仕事にAIを入れるときの抵抗が小さくなります。

問い合わせ対応や営業の下準備のように、毎回同じ作業を繰り返している仕事は、AIに任せる範囲を決めるところから始めると成果が見えやすくなります。自社のどの業務から手をつけるかを整理したいときは、外部の知見を借りる選択肢もあります。

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注意して読むべき点

  • 2023年と2024年の回数(2,130万回・2億4,540万回)と「当初見込みの2倍超」は報道(VentureBeat)の数字です。記事は同行CIOへの取材にもとづき、同行の社内統計として紹介していますが、同行の年次報告や発表文では今回確認できていません
  • 「6億回近く」「10億回超」はやり取りの回数で、解決した件数ではありません。VentureBeatは1回の利用で複数回のやり取りがあると伝えており、利用者数や解決率は公表されていません
  • 年次報告の2025年の数字は「人を介さない(autonomous)やり取り」、2026年3月の発表の累計は「やり取り」と、表現が異なります。数え方の定義はどちらの資料にも示されていません
  • コールセンターでのAIエージェント、法人向け融資の審査の自動化は、効果の数字が公表されていません。CEOレターも「2026年はこの取り組みの重要性を示す大事な年になる」と書いており、成果の検証はこれからの段階です
  • Google Cloud との提携拡大(2025年8月)で示された、残高照会やデビットカードの再発行をAIエージェントが処理する姿は、発表時点では今後の計画です。
  • AI化による人員数やコストへの影響は、これらの資料では数字で示されていません。
  • 同行は総資産約2.1兆ドルの大手銀行で、中小企業とは前提が大きく異なります。規模ではなく任せる範囲の決め方と情報管理の進め方を参考にするのが適切です

よくある質問

Q. ウェルズ・ファーゴのAIアシスタント「Fargo」はどれくらい使われていますか?

同行の年次報告(CEOレター・2026年3月16日付)によれば、Fargoは2025年の1年間に人を介さずに6億回近く、顧客とのやり取りをこなしました。2026年3月26日の自社発表では、提供開始から3年足らずで累計10億回を超えたとしています。いずれもやり取りの回数で、解決した件数ではありません。

Q. 銀行が生成AIを使うとき、顧客の個人情報はどう守っているのですか?

報道(VentureBeat・2025年4月8日)によれば、同行は音声を社内で文字に起こし、個人情報を社内の小さな言語モデルで検出して取り除いてから、用件の読み取りだけを外部の言語モデルに頼む設計にしています。同行は「機密データがモデルに届くことはない」と説明しています。

Q. 中小企業がこの事例から最初に真似すべきことは何ですか?

答えが決まっている問い合わせから、AIに任せることです。Fargoが受け持つのは送金・支払い・残高確認のような定型の用件です。中小企業でも、営業時間や料金、手続きの流れなど毎回同じ答えを返している問い合わせから始めると、AIが人を介さずに完結できる割合を上げやすくなります。あわせて、顧客名や契約金額などをAIに入力しないルールを先に決めておくと安心です。

Q. AIが銀行員の仕事を奪っているのですか?

CEOは年次報告で、AIエージェントを人と人との関わりや専門性の置き換えではなく、補完するものと位置づけています。コールセンターや社内ヘルプデスクでは、電話担当者の定型作業をAIエージェントで自動化し、社員が顧客にとって価値の高い仕事に時間を使えるようにすると説明しています。ただし、AI化による人員数やコストへの影響は数字で示されていません。

Q. 公表された数字はどこまで信用できますか?

2025年の「6億回近く」は米SEC(証券取引委員会)に提出された年次報告のCEOレター、累計「10億回超」は自社発表です。一方、2023年・2024年の回数は報道(VentureBeat)が同行CIOへの取材にもとづいて伝えた数字です。いずれもやり取りの回数で解決件数ではなく、コスト削減額などの効果は公表されていない点に注意が必要です。

出典

出典と、その読み方

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