営業職員3.6万人のスマホにAI秘書、訪問準備と報告の時間は3割減|明治安田生命の事例
公開 2026-09-25 / 約13分
2024年10月に導入した「デジタル秘書 MYパレット」の対象となる営業職員(MYリンクコーディネーター等)の人数・約36,000人超(自社発表2025年1月16日)
約3.6万人
出典:自社発表(2025-01-16時点)
- 地域
- 🇯🇵 日本
- 業種
- 金融(生命保険)
- AI化した領域
- 営業活動の支援(訪問準備・提案アドバイス)/商談記録・お礼文の自動作成/社内版ChatGPTの全社展開/営業所長の教育・指導支援
- 出典の種別
- 決算・年次報告/自社発表/報道/ベンダー事例
生命保険の対面営業は、AI化がいちばん遠い仕事の1つだと思われてきました。明治安田生命はそこに正面から手を入れています。2024年10月、約3.6万人を超える営業職員(MYリンクコーディネーター等)のスマートフォンに「デジタル秘書 MYパレット」を導入。お客さまの属性や趣味嗜好、地域のイベント情報をAIが分析して会話のアドバイスを出し、訪問後の記録やお礼文づくりまで支えます。報道では、訪問準備や報告作業にかかる時間を従来比で30%削減できているとされています。2025年8月からは同じ「デジタル秘書」を役員・本社、支社、営業所長、法人営業へと順に広げました。出典と発表日つきで整理します。
この事例の要点
- 2024年10月、約36,000人を超える営業職員向けに「デジタル秘書 MYパレット」を導入(自社発表・2025年1月16日)。顧客の属性・趣味嗜好・地域のイベント情報などをAIが分析し、最適なコミュニケーションのアドバイスを行う(アクセンチュア発表・同日)
- 訪問時の情報は音声でも入力でき、入力内容をもとにお礼文の作成も支援。訪問準備や報告作業にかかる時間を従来比で30%削減できていると報じられている(報道・DIGITAL X 2025年3月4日)
- アクセンチュアと2029年度末までの約5年間のパートナーシップ契約を結び、投資規模は現時点で約300億円を想定。DX・AI領域の中核を担う300名超の人財育成をめざす(自社発表・2025年1月16日)
- 社内版ChatGPTを刷新した「デジタル秘書」を、2025年8月に役員・本社職員版、10月に支社職員版・法人部職員版、12月に営業所長向けの指導者版、2026年1月に法人営業版と順に展開(第79回定時総代会議案・2026年7月2日)
- 先行した社内版ChatGPT「AIアシスタント」は導入当初に利用率が伸び悩み、ガイドブック・勉強会・コンテスト・テンプレート整備で利用率を大きく伸ばした(自社発表・2024年12月9日)
どんな会社か
明治安田生命保険相互会社は、2004年に旧明治生命と旧安田生命が合併して生まれた大手生命保険会社です。この事例で効いてくる規模は、全国に約3.6万人を超える営業職員(同社の呼称はMYリンクコーディネーター)を抱える対面営業の会社だという点です。報道によれば、これとは別に本社や事務職員などが約1.1万人います(DIGITAL X・2025年3月4日)。
同社は10年計画「MY Mutual Way 2030」で「人とデジタルの効果的な融合」を重点方針に掲げています。営業職員には2019年から業務用スマートフォン「MYフォン」を約3万5,000名に配布しており(Google Cloud事例・2021年3月24日)、AIを載せる端末が全営業職員の手元に先に揃っていた会社です。
何が課題だったのか
報道によると、同社ではこれまで、顧客訪問のたびに営業担当者が顧客情報を個別に調べ、提案内容を作っていました。地域や顧客ごとにニーズが異なるため情報管理も煩雑になり、多くの時間がかかっていたとされます(DIGITAL X・2025年3月4日)。
もう1つは会社側の体制です。2025年1月16日の自社発表は、生成AIを本格的に業務へ組み込むにはハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)等のリスクや技術の急速な進展に対応する必要があり、「当社の知見・人財・基盤はまだ十分とは言えない状況」だと率直に書いています。外部と組んで全社で進める判断は、この認識から出ています。
何をAI化したのか
中心は営業職員のスマートフォンに入った「デジタル秘書 MYパレット」です。公表されている機能は次のとおりです。
| 場面 | AIがすること | 出典 |
|---|---|---|
| 訪問前 | 顧客の年齢・趣味嗜好・過去の契約履歴・地域特性などを分析し、ライフステージやニーズに合った提案を支援 | DIGITAL X(2025年3月4日) |
| 面談中 | 会話音声をリアルタイムに文字起こしし、提案すべき案内を自動で提示 | IT Leaders(2025年1月16日・アクセンチュア提供の画面説明) |
| 訪問後 | ヒアリング内容を音声でも入力でき、面談記録やお礼文を自動で作成 | DIGITAL X(2025年3月4日)・IT Leaders(同上) |
そのうえで、同じ「デジタル秘書」を職種ごとに作り分けて全社へ広げています。
| 時期 | 展開したもの | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年10月 | 営業職員向け「デジタル秘書 MYパレット」を全国展開 | 第78回定時総代会議案(2025年7月2日) |
| 2025年8月 | 社内版ChatGPTを刷新し「デジタル秘書 役員・本社職員版」 | 第79回定時総代会議案(2026年7月2日) |
| 2025年10月 | 「デジタル秘書 支社職員版・法人部職員版」 | 同上 |
| 2025年12月 | MYパレットにAIによる活動アドバイス・業務効率化の機能を実装。営業所長向けに教育・指導を支える「デジタル秘書 指導者版」 | 同上 |
| 2026年1月 | 法人営業担当向けに日々の活動報告を支える「デジタル秘書 法人営業版」 | 同上 |
2025年12月の総代報告会では、生成AIを業務で使える「デジタル秘書」を全役職員に展開していると説明しています(自社発表・2025年12月2日)。さらに2026年度からは、すべての役職員と営業職員の業務品質・生産性を高めて「ひとにしかできない業務」に専念するための「AI戦略」を推進するとしています(第79回定時総代会議案)。
なぜここまでできたのか

この事例でいちばん参考になるのは、AIを「全社員向けの汎用チャット」ではなく「職種ごとの秘書」として作り分けたことです。営業職員には面談の前・中・後に寄り添う機能を、営業所長には部下の教育・指導を支える機能を、法人営業には日々の活動報告を支える機能を、と役割ごとの仕事の流れに合わせたメニューを用意しています。第79回定時総代会議案は、刷新した「デジタル秘書」を「役職や職務ごとの業務の流れやタスク内容に対応するメニューを備えた」ものと説明しています。
2つめは、利用率が伸び悩んだ経験を先にしていたことです。先行して展開した社内版ChatGPT「AIアシスタント」は導入当初、利用率が伸び悩みました。そこで活用ガイドブックの作成、勉強会・コンテストの開催、簡単に精度の高い出力が得られるテンプレートの用意、ファイルアップロード機能の追加を重ね、利用率が大きく増加したと同社は発表しています(2024年12月9日)。「入れただけでは使われない」ことを一度経験していたからこそ、次の「デジタル秘書」を職務別メニューの形にしたと読めます(この因果は推測です)。
3つめは、土台を先に作っていたことです。営業職員へのスマートフォン配布は2019年、AIを使ったセルフトレーニングアプリ「AIロープレ」は2021年3月時点で約7,000名が利用していました(Google Cloud事例)。そのうえで2025年4月に専担組織「デジタルイノベーションHub」を新設し(第79回定時総代会議案)、アクセンチュアの伴走で社内人財を育てています。端末・データ・人の順に積み上げてきた結果として、3.6万人規模の一斉導入が成り立っている事例です。
中小企業が真似できる3点
① 「全員に同じチャット」ではなく、職種ごとに使い道を1つ決めて渡す。 明治安田生命は営業・営業所長・法人営業・本社と、役割ごとに別メニューの「デジタル秘書」を作りました。中小企業なら、営業には「訪問前の下調べ」、上長には「部下の日報へのコメント」のように、職種ごとに最初の1つを決めて配るだけでも同じ発想になります。
② 訪問の前後の「書く・調べる」から手をつける。 同社が最初に効果を語ったのは、商談そのものではなく、訪問準備と報告作業の時間です。顧客情報の下調べ、面談記録、お礼文は、どの営業組織にもある定型の仕事で、AIに任せやすい部分です。
③ 使われなかったときの打ち手を先に用意しておく。 社内版ChatGPTの利用率が伸び悩んだとき、同社はガイドブック・勉強会・コンテスト・テンプレートで立て直しました。導入と同時に、すぐ使えるテンプレートと、使い方を共有する場を用意しておくと、立ち上がりが早くなります。
営業の訪問前後の業務をどこからAIに任せるか、職種ごとに何を最初の1つにするかは、会社ごとに答えが違います。私たちAIリモートワーカーも、営業・マーケの現場でこの設計を一緒に進めています。
ai-remote-worker.com AIリモートワーカー|営業・マーケのAI導入支援 営業・マーケティングのAI化を、月額定額または成果確認後払いで。実装まで踏み込む伴走型の支援です。注意して読むべき点
- 「訪問準備や報告作業の時間を従来比30%削減」は報道(DIGITAL X・2025年3月4日)の記述で、同社が「削減できているとする」という形で紹介されています。明治安田生命の発表資料・総代会議案では、この数字そのものは確認できていません。測定方法・対象人数・期間も公表されていません
- 「約300億円」は投資規模の想定(現時点)です。実際の投資実績額ではありません。「300名超の人財育成」も「めざす」とされた目標です
- 約36,000人は、MYパレットの対象となる営業職員の人数(「約36,000人を超える」)です。全員が日常的に使っているかどうか(利用率)は公表されていません
- 面談中のリアルタイム文字起こし・提案案内の機能は、IT Leadersの記事に掲載されたアクセンチュア提供の画面説明にもとづきます。全営業職員が面談で常時使っているかは公表されていません
- 2025年8月以降に展開した「デジタル秘書」各版(役員・本社、支社・法人部、指導者版、法人営業版)について、利用率や削減時間などの効果の数字は、本記事執筆時点(2026年9月)で公表を確認できていません
- 営業成績(契約件数・保険料収入など)への影響は、AIの効果として切り分けた数字が公表されていません
よくある質問
Q. 明治安田生命はAIで営業職員を減らしたのですか?
出典に人員削減の記載はありません。同社はAIで生まれた時間を「ひとにしかできない業務」や「人ならではの価値」を生み出す業務に振り向けると説明しており、報道でも報告業務の時間を減らして顧客対応により多くの時間を割くことが目的とされています。
Q. 中小企業がこの事例から最初に真似すべきことは何ですか?
訪問前の下調べと訪問後の記録・お礼文を、AIに任せる最初の仕事に決めることです。明治安田生命が最初に効果を語ったのも、商談そのものではなく訪問準備と報告作業の時間でした。あわせて、職種ごとに「最初の1つ」を決めて配ると、全員に汎用チャットを渡すより使われやすくなります。
Q. 「訪問準備や報告作業の時間を30%削減」という数字はどこまで信用できますか?
報道(DIGITAL X・2025年3月4日)が同社の説明として伝えた数字で、会社の発表資料では確認できていません。測り方や対象も公表されていないため、「同社はそう説明している」という水準の数字として読むのが妥当です。規模の目安にはなりますが、自社の見込みを立てる根拠にするなら、自社で導入前後の時間を測るほうが確実です。
Q. 社内でAIが使われないときはどうすればいいですか?
明治安田生命も、先行して入れた社内版ChatGPTの利用率が導入当初は伸び悩みました。活用ガイドブック、勉強会やコンテスト、すぐ使えるテンプレート、ファイルアップロード機能の追加を重ねて、利用率を大きく伸ばしたと発表しています(2024年12月9日)。道具を入れた後の「使い方を広める場」まで計画に入れておくのが、この事例からの学びです。
Q. なぜ3.6万人に一斉導入できたのですか?
出典から読み取れるのは、土台が先にあったことです。営業職員には2019年から業務用スマートフォンが配られ、2021年にはAIを使ったトレーニングアプリも使われていました。そのうえで外部パートナーと約5年のプログラムを組み、専担組織を新設して社内人財を育てています。端末・仕組み・人を段階的に揃えてきた結果と読めます。
出典
- アクセンチュア社との包括的パートナーシップ契約の締結について〜生成AI等の先端デジタル技術の業務実装と人財育成に係る取組み〜(明治安田生命保険相互会社・2025年1月16日)
- 明治安田生命、全社での生成AI活用視野に営業職3万6000人が使うAIエージェントを導入(DIGITAL X・2025年3月4日)
- アクセンチュア、生成AIなどの先端技術を活用し、明治安田の全社横断的なDXに伴走(アクセンチュア株式会社・2025年1月16日)
- 明治安田生命、生成AIの活用に300億円投資、デジタル秘書を全従業員に展開、内製人材も育成(IT Leaders・2025年1月16日)
- 第79回定時総代会議案(明治安田生命保険相互会社・2026年7月2日)
- 第78回定時総代会議案(明治安田生命保険相互会社・2025年7月2日)
- 2025年度総代報告会の報告事項および質疑応答の内容について(明治安田生命保険相互会社・2025年12月2日開催)
- 「2024年度(第42回)IT賞」において「IT賞(マネジメント領域)」を受賞!(明治安田生命保険相互会社・2024年12月9日)
- 明治安田生命保険相互会社:AI を活用したセルフ トレーニングに Speech-to-Text を採用、営業職員の効果的な人材育成をサポート(Google Cloud 公式ブログ・2021年3月24日)
出典と、その読み方
- 決算・年次報告2026-07-02第79回定時総代会議案(事業報告・2025年度)(明治安田生命保険相互会社)
決算・IRの開示資料(監査済みの数値とは限らない)
- 決算・年次報告2025-07-02第78回定時総代会議案(事業報告・2024年度)(明治安田生命保険相互会社)
決算・IRの開示資料(監査済みの数値とは限らない)
- 自社発表2025-01-16アクセンチュア社との包括的パートナーシップ契約の締結について〜生成AI等の先端デジタル技術の業務実装と人財育成に係る取組み〜(明治安田生命保険相互会社)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 報道2025-03-04明治安田生命、全社での生成AI活用視野に営業職3万6000人が使うAIエージェントを導入(DIGITAL X)
第三者による取材
- 自社発表2025-01-16アクセンチュア、生成AIなどの先端技術を活用し、明治安田の全社横断的なDXに伴走(アクセンチュア株式会社)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 報道2025-01-16明治安田生命、生成AIの活用に300億円投資、デジタル秘書を全従業員に展開、内製人材も育成(IT Leaders)
第三者による取材
- 自社発表2025-12-022025年度総代報告会の報告事項および質疑応答の内容について(明治安田生命保険相互会社)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 自社発表2024-12-09「2024年度(第42回)IT賞」において「IT賞(マネジメント領域)」を受賞!(明治安田生命保険相互会社)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- ベンダー事例2021-03-24明治安田生命保険相互会社:AI を活用したセルフ トレーニングに Speech-to-Text を採用、営業職員の効果的な人材育成をサポート(Google Cloud 公式ブログ)
販売側の資料。数字は最も慎重に読む