コールセンター8,500人をデザイン相談・販売の担い手へ|イケア(IKEA)の事例
公開 2026-10-01 / 約13分
AIチャットボット「Billie」が定型の問い合わせを引き受ける一方で、リモートのインテリアデザイン相談・デジタル販売などのスキルを学び直したコールセンター社員の数(Ingka Group発表・2023年6月29日)
8,500人
出典:自社発表(2023-06-29時点)
- 地域
- 🇸🇪 スウェーデン(海外)
- 業種
- 小売(家具・インテリア)
- AI化した領域
- カスタマーサポート/問い合わせ自動化/リモート販売/社員のAI研修
- 出典の種別
- 自社発表/報道
顧客対応のAI化の最先端は、「人を減らす」の先まで進んでいます。IKEA最大の小売会社であるIngka Groupは、2021年度に導入したAIチャットボット「Billie」が、2021〜2023年に受けた問い合わせの約47%(約320万件)を解決し、約1,300万ユーロを節約したと発表しました。そのうえで、定型の問い合わせから手が離れたコールセンター社員8,500人が、リモートのインテリアデザイン相談やデジタル販売のスキルを学び直しています(2023年6月29日)。2026年7月のFortuneの報道では、Billieが対応できる割合は74%まで広がり、リモート販売拠点の売上は直近の会計年度で12.5億ユーロに達しています。出典と発表日つきで整理します。
この事例の要点
- 2021年度(2020年9月〜2021年8月)にAIチャットボット「Billie」を導入。2021〜2023年に、受けた問い合わせの約47%を解決し、件数にして約320万件、節約額は約1,300万ユーロ(Ingka Group発表・2023年6月29日)
- コールセンター社員8,500人が、リモートのインテリアデザイン、デジタル販売、関係づくり、複雑な問い合わせの解決といった別のスキルを学び直した(同発表)
- Fortuneの報道(2026年7月30日)では、Billieが対応できる利用者の割合は最初の2年の47%から74%へ。学び直した社員は「複雑な問い合わせの解決」と「販売寄りのデザイン相談」の2チームに分かれ、24のリモート販売拠点から31か国をカバーしている
- 同報道によれば、リモート販売拠点は過去3年で最も伸びた販売チャネルで、前年比15〜20%の成長。直近の会計年度の売上は12.5億ユーロ(前年10.8億ユーロ)、対応した顧客は1,000万人。社内の顧客満足スコアはBillie導入前の60%から89%に上がった
- 並行して社員のAI研修を全社に広げている。2026年末(2026年度)までに約7万人(全社員のおよそ半数)の研修を目標とし、研修の修了を高度なAIツールを使う条件にしている(Ingka Group発表・2025年)
どんな会社か
IKEAのブランドは、フランチャイズ本部のInter IKEA Groupが持ち、店舗の大半はフランチャイズ加盟社であるIngka Groupが運営しています。Ingka Groupは31の国と地域でIKEAの小売事業を行い、IKEAの小売売上の87%を占める最大の運営会社です(2025年11月時点の自社説明)。社員は約16万人(2025年6月時点の自社説明)。
Fortuneの報道によれば、同社はもともとEC化が遅れていましたが、コロナ禍で店舗を出荷拠点に切り替えたことをきっかけにデジタル販売が急伸し、直近の会計年度には総売上の30%をデジタルチャネルが占めています。
何が課題だったのか
Fortuneの報道によると、コロナ禍でECの注文が急増した結果、コールセンターには通常の最大3倍の問い合わせが押し寄せました。その多くは「何時に開店するか」「犬を連れて店に入れるか」といった基本的な内容や、既存の注文についての質問で、自動化に向いた問い合わせでした。
Ingkaの最高デジタル責任者パラグ・パレク氏は、このECの急成長が、店頭で「何でも説明してくれる店員」を前提にしてきた顧客対応のやり方を根本から変えたと語っています。その相談の役割を、オンラインでどう提供するかという課題も残っていました。定型の問い合わせをAIに任せたあと、コールセンターの社員を何に振り向けるかが、次の論点になりました。
何をAI化したのか
AIに任せたのは定型の問い合わせで、人を振り向けた先は販売です。
- 定型の問い合わせへの自動対応 — 自然言語処理を使ったチャットボット「Billie」が、商品情報の案内や簡単な問い合わせに24時間対応し、複数の会話を同時に処理する(2023年の発表)
- コールセンター社員の学び直し — 8,500人がリモートのインテリアデザイン、デジタル販売、関係づくり、複雑な問い合わせの解決を学んだ(2023年の発表)。Fortuneの報道では、デジタルの部屋設計ツールの使い方に加え、寸法や色の好みから「この部屋のどこがうまくいっていないか」まで聞き出す質問の仕方を学ぶ。現在は新人向けに5〜6週間の研修になっている
- 2つのチームへの再編 — 複雑な問い合わせを解決するチームと、部屋のプランづくりを手伝う販売寄りのデザイン相談チーム。配送への不満や組み立ての相談も人が受け、機会があれば追加の提案もする(Fortuneの報道)
- 全社員のAI研修 — 2024年度から約3万人の社員と500人のリーダーへの研修を目標に掲げ(2024年4月の発表)、2026年度に約7万人、2027年度にはほとんどの社員の研修を終える計画(2025年6月の発表)。30分の入門講座「Say Hej to AI」を入社時研修に組み込み、修了を高度なAIツールの利用条件にしている(2025年11月の発表)
なぜここまでできたのか|AIで空いた時間を「売る仕事」に振り向けた

この事例の特徴は、AI化の成果を「削減できた人数」ではなく「新しく売れた金額」で語っている点です。Billieが定型の問い合わせを引き受けた分、コールセンター社員を部屋づくりの相談役に回し、リモート販売拠点を同社で最も伸びる販売チャネルに育てました。
Fortuneの報道によれば、ウェブ上には無料の設計ツールがあるにもかかわらず、一定数の顧客は人のデザイン相談(これも無料)を選んでいます。台所の食洗機を開けたときに足を取られない配置のように、住まいの設計には人の判断が効く場面が多く、人のデザイン相談員がボットでは対応できない電話を商談に変え、売上につなげていると報じられています。
もう1つは、学び直しに時間をかけたことです。8,500人の学び直しにはBillieの能力が上がるのに合わせて2年をかけ、対面とオンラインの講座を組み合わせています。報道で紹介された英国の社員は、商品知識を学ぶ2週間の「キッチンスクール」を受け、近くの店舗で実物の天板を確かめる機会もあったと語っています。AIツールそのものより、人が次に担う仕事の中身を先に設計したことが、この到達点の土台になっています。
日本の中小企業が真似できる3点
① AIに渡す仕事と、人が次にやる仕事をセットで決める。 イケアは定型の問い合わせをAIに任せると同時に、空いた人を部屋づくりの相談と販売に振り向けました。自社でも、問い合わせ対応を自動化するときに「浮いた時間で誰が何を売るか」まで決めておくと、AI化が削減だけで終わりません。
② 今の仕事の延長にある「隣のスキル」を学び直す。 コールセンターの社員はもともと商品と顧客の悩みに詳しく、デザイン相談や販売はその延長線上にありました。問い合わせ担当を提案や既存顧客へのフォローに回すなど、今持っている知識を活かせる仕事に振り向けるのが近道です。
③ AI研修を「使う前の条件」にする。 イケアは30分の入門講座を入社時研修に組み込み、修了を高度なAIツールを使う条件にしています。少人数の会社でも、最初に共通の使い方とやってはいけないことを揃えてから使い始める進め方は、取り入れやすい手順です。
問い合わせの自動化で空いた時間を、営業やフォローに回す設計まで一緒に考えることが、AI化を売上につなげる分かれ目です。どの業務から手を付けるかの整理に迷ったときは、外部の知見を借りる選択肢もあり、私たちAIリモートワーカーのようなサービスもその1つです。
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- 「47%」と「74%」は、同じ定義の数字とは限りません。2023年の自社発表は「受けた問い合わせのうち約47%を解決した」、Fortuneの報道は「ツールを使った利用者のうち、対応できた割合が最初の2年で47%、現在は74%」と表現しています。74%は報道の数字で、Ingka Groupの発表では確認できていません
- リモート販売の売上は、出典によって数字と呼び方が異なります。2023年の自社発表は「リモートの顧客接点」の売上を2022年度末で13億ユーロ(総売上の3.3%)とし、「数年以内に10%へ」を目標に掲げていました。一方、Fortuneの報道は「リモート販売拠点」の売上を直近の会計年度で12.5億ユーロ(前年10.8億ユーロ)としています。集計範囲の違いと考えられますが、出典では説明されておらず、10%目標の達成状況も公表されていません
- 売上の伸びをすべてAIの効果とは言えません。同じ期間にECそのものが伸びており、Billieや学び直しの寄与だけを切り出した数字は公表されていません
- 約1,300万ユーロの節約額は、算出方法が示されていません。2021〜2023年の累計(発表時点まで)として読むのが安全です
- 顧客満足スコア(60%→89%)とBillieの74%は、報道が伝えた社内指標です。第三者による検証は確認できませんでした
- 人員削減がゼロだったわけではありません。Fortuneの報道によれば、Ingka GroupとInter IKEA Groupは2026年春に本社部門を中心に数百人規模の人員削減を行いました。ただし報道は、リモート販売拠点は対象外で、AIを理由とした削減ではないとしています。パレク氏は将来の削減の可能性を否定しておらず、その場合も主な要因はAIではなく経済環境になるだろうと述べています
よくある質問
Q. イケアはAIチャットボットでコールセンターの人員を減らしたのですか?
公表されている範囲では、減らすのではなく振り向けています。Ingka Groupは2023年6月29日の発表で、Billieが定型の問い合わせを引き受けた分、コールセンター社員8,500人がリモートのインテリアデザイン相談やデジタル販売を学び直したとしています。なお2026年春には本社部門を中心に人員削減がありましたが、Fortuneの報道はリモート販売拠点は対象外で、AIを理由とした削減ではないと伝えています。
Q. 「Billie」はどのくらいの問い合わせを解決しているのですか?
Ingka Groupの発表(2023年6月29日)では、2021〜2023年に受けた問い合わせの約47%、件数にして約320万件を解決し、約1,300万ユーロを節約したとしています。2026年7月のFortuneの報道では、対応できる利用者の割合は74%まで広がったとされていますが、47%と定義が同じかは確認できていないため、幅をもって読むのが安全です。
Q. 学び直した社員はどのくらい売上につながっているのですか?
Fortuneの報道(2026年7月30日)によれば、学び直した社員が働くリモート販売拠点の売上は、直近の会計年度で12.5億ユーロ(前年10.8億ユーロ)で、過去3年は前年比15〜20%で伸びる最も成長の速い販売チャネルです。ただし同じ期間にEC全体も伸びており、AIや学び直しの効果だけを切り出した数字は公表されていません。
Q. 中小企業でもこのやり方を真似できますか?
規模は違いますが、考え方は流用できます。件数が多く答えが決まっている問い合わせをAIに任せ、空いた時間を提案や既存顧客のフォローなど売上に近い仕事に振り向ける。そのときに、今の担当者が持っている商品知識や顧客理解を活かせる仕事を選ぶ、という順番は中小企業でも現実的です。
Q. 社員のAI研修はどのように進めているのですか?
Ingka Groupは2024年度から約3万人の社員と500人のリーダーへの研修を目標に掲げ(2024年4月12日の発表)、2026年度に約7万人、2027年度にはほとんどの社員の研修を終える計画を示しています(2025年6月30日の発表)。30分の入門講座「Say Hej to AI」を入社時研修に組み込み、修了を高度なAIツールを使う条件にしています(2025年11月27日の発表)。
出典
- AI and Remote Selling bring IKEA design expertise to the many(Ingka Group Newsroom・2023年6月29日)
- Inside Ikea's big bet on humans in the age of AI(Fortune・2026年7月30日)
- IKEA Retail unleashes AI revolution: empowering thousands to master the future of tech(Ingka Group Newsroom・2024年4月12日)
- No manuals available: How IKEA is navigating AI literacy in a world without instructions(Ingka Group Newsroom・2025年6月30日)
- IKEA featured in European Commission's Repository of AI Literacy Practices(Ingka Group Newsroom・2025年11月27日)
出典と、その読み方
- 自社発表2023-06-29AI and Remote Selling bring IKEA design expertise to the many(Ingka Group Newsroom)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 報道2026-07-30Inside Ikea's big bet on humans in the age of AI(Fortune)
第三者による取材
- 自社発表2024-04-12IKEA Retail unleashes AI revolution: empowering thousands to master the future of tech(Ingka Group Newsroom)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 自社発表2025-06-30No manuals available: How IKEA is navigating AI literacy in a world without instructions(Ingka Group Newsroom)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認
- 自社発表2025-11-27IKEA featured in European Commission's Repository of AI Literacy Practices(Ingka Group Newsroom)
プレスリリース・自社ブログ等の公表値。前提条件は要確認