架電数をKPIにすると起きること|「自分のための電話」の直し方
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架電数は毎月達成している。なのに、アポの数も受注も動かない。メンバーからは「かければいいんですよね」という声が返ってくる——インサイドセールスや新規開拓の現場で、いちばん相談の多い状態です。
これは、メンバーの努力不足でも根性の問題でもありません。架電数という指標が、行動の中身を静かに書き換えているだけです。この記事では、代表自身が架電数KPIの現場にいた頃に何が起きたか、そこから何を変えてトップセールスになったのか、そしてその方法がなぜチームに広がらなかったのかを、当社の実測時間とあわせて公開します。
この記事の要点
- 架電数をKPIに置くと、電話は「For you(お客様のため)」から「For me(自分の件数のため)」に変わる。台本どおりの画一的な会話が増え、売上は動いても顧客の課題は解決しない
- ただし架電数をゼロにしてはいけない。行動量は成果の土台で、外すと今度は「準備ばかりして誰にも接触しない」状態になる。足すのであって、置き換えるのではない
- 足すべきは架電の前工程(誰にかけるか/何を持っていくか/かけた後に何を残すか)。代表はここを変えてトップセールスになったが、朝2時間の手作業だったため再現性がなかった
- 前工程をAIで型にすると、当社および支援先の実測の目安で商談準備は30分→1分、2回目の商談資料は90分→10分、商談後の議事録は30分→実質0分。積み上げで担当者1人あたり月43時間以上
- KPIを移すときの失敗は3つ。①いきなり架電数を撤廃する ②準備の質を上長の主観で評価する ③記録を人に書かせ続ける
架電数をKPIにすると、電話は「自分のため」になる
結論から言うと、架電数KPIの本当の副作用は「質が下がること」ではなく、電話の目的がすり替わることです。
代表がスタートアップで営業をしていた頃、現場のKPIは架電の行動量と議事録を残すことでした。数字が出ない時期に何が起きていたかというと、気づいたときには、お客様のための電話ではなく自分の件数のための電話になっていた。役に立たないと分かりながら、台本どおりの画一的な言葉を話していた。
For you ではなく、For me の電話です。
このとき厄介なのは、短期の売上は上がってしまうことです。かければ一定の確率でアポは取れるので、数字だけを見ると仕組みが機能しているように見える。けれど顧客の課題は解決されていないので、失注率も解約も改善しない。管理する側も同じで、当時は商談録画の確認が手作業でした。全部は見られないので指摘はその時々の印象で変わり、現場は何を直せばいいのか分からなくなる。結果として、うまくいっている人のやり方はその人の中にだけ残る——成功が完全に属人化します。
営業の言葉に翻訳すると、架電数KPIは「接触の数」を管理しているのに、成果を決めているのは「接触の中身」だというズレを放置している状態です。
それでも、架電数を外してはいけない
ここは正直に書きます。「架電数KPIをやめましょう」という結論にはしません。
行動量をKPIから外した現場でよく起きるのが、準備と分析ばかりが増えて、誰にも接触しないまま月末を迎える状態です。どれだけ質の高い仮説を持っていても、対象となるお客様に届いていなければ、成果はゼロのままです。探すこと・接触すること自体は、営業の土台として外せません。
だから当社が提案しているのは、架電数を残したまま、前工程の指標を足すやり方です。実際、代表がやったのも「かける回数を減らす」ことではなく、行動量は落とさずに、かける前の中身を変えることでした。

具体的には、こう変えています。
| 工程 | 変える前 | 変えた後 |
|---|---|---|
| かける相手の決め方 | リストの上から順番 | 企業サイトを事前に読み、課題の仮説を1つ持つ |
| 話す内容 | 全社共通の台本 | 推察した課題を最初に確認する質問から入る |
| 送るもの | 共通の会社案内 | その会社向けにカスタマイズした資料と、個別の解説動画 |
| 記録 | 終業後に記憶を掘り返して入力 | ——(当時は手作業のまま。ここが最後まで残った) |
この形に変えてから、代表はトップセールスになりました。行動量は落としていません。変えたのは、かける前と、かけた後に何を渡すかです。
足すべき指標は「架電の前工程」にある
では何を測るのか。当社が現場で使っているのは、次の3つの前工程です。

① 誰にかけるか(仮説をつけてリスト化した件数)
リストの絶対数だけでなく、「この会社はこういう状況ではないか」という仮説がついた件数を数えます。仮説がついていれば、1件目の質問が全社共通の台本から変わります。
② 何を持っていくか(個別化した資料・動画を送った件数)
架電の直後に、その会社向けの資料が届いているかどうか。ここは相手の社内で転送される前提で作ると効きます。決裁者に直接会えないケースのほうが多いので、担当者がそのまま社内で使える形にしておくと、こちらが同席しない場でも話が進みます。
③ かけた後に何を残すか(記録が自動で残っている率)
ここを「入力率」として人に課すと、また同じ失敗を繰り返します。後述しますが、記録は人のKPIから外すのが正解です。
この3つを架電数と並べて置くのがポイントです。架電数だけを見れば量に、前工程だけを見れば準備に偏ります。両方を同時に見ると、「かける前に仮説を1つ持って、かけた後に個別の資料を送る」という一連の動きが初めて評価対象になります。
なお、どのチャネルにどれだけ寄せるかという手前の判断は、BtoB新規開拓の手法9つを比較した記事で、当社が自社で運用した実測データとあわせて整理しています。
型にしても広がらなかった理由|朝2時間の準備は真似できない
ここが、この記事でいちばん伝えたい失敗談です。
前述のやり方は成果につながりましたが、チームには広がりませんでした。理由は単純で、全部が手作業だったからです。朝早く出社して2時間かけて、企業サイトを読み込み、その会社向けの資料を作り、解説動画を録る。これを毎日続けられる人は多くありません。
つまり、勝ちパターン自体は存在していたのに、再現性がなかった。一人が手間をかけて守っていた型で終わってしまった。
営業組織でよくある「トップセールスのやり方を横展開しましょう」が失敗するのは、たいていこの構造です。横展開されているのは話し方や心構えで、実際に成果を分けていた前工程の手間は共有されていない。手間の部分は、共有しても他の人が同じ時間を出せないので実行されません。
その後、代表はSFAを大手企業に売る側に回り、次に上場企業でAIを入れる側になりましたが、同じ壁に当たっています。管理職のご要望どおりに設計しても、現場は入力しない。現場に「AI化したい業務」を聞くと、少し楽になるだけでROIが出ない業務が挙がってくる。3つの立場で、同じ場所に行き着きました。置くだけでは使われない。手間が減らないかぎり、人は慣れたやり方に戻ります。
前工程をAIに寄せると、実測で何分になるか
そこで当社が取っているのは、前工程そのものをAIで実装して現場に渡すやり方です。KPIを足しても、その作業に時間がかかるままなら現場は動けないので、指標の変更と作業時間の圧縮はセットでなければ機能しません。
以下は、当社自身と支援先で実際に短縮できた業務の一例です(時間は目安であり、業務の複雑さによって変わります)。

| 業務 | 変える前 | 変えた後 |
|---|---|---|
| 商談準備(企業リサーチ・仮説づくり) | 30分 | 1分 |
| 2回目の商談で出す提案資料 | 90分 | 10分 |
| 商談後の議事録 | 30分 | 実質0分(録音から自動生成) |
| 提案戦略の立案 | 60分 | 5分 |
| 操作マニュアル | 1時間 | 10分 |
積み上げると、営業・マーケの担当者1人あたり月43時間以上が事務作業から戻ってくる計算です。5名のチームなら月215時間以上になります。
ただし、ここで止めると「効率化して終わり」になります。浮いた時間を何に使うかを先に決めていない組織では、空いた分だけ既存の作業が広がって元に戻ります。当社が推奨しているのは、浮いた時間を丸ごと①と②に戻すことです。1件あたりの準備が30分から1分になれば、これまで朝2時間かけて1〜2件しか用意できなかった個別対応が、行動量を落とさないまま全件に対して回せるようになる。一人が守っていた型を、チーム全員ぶんに広げられます。
削減した時間を金額としてどう確定させるかについては、営業のAI化「削減効果」の正しい測り方で、導入前の時間を正確に測れないという前提に立った実務手法をまとめています。
KPIを移すときによくある3つの失敗
① いきなり架電数を撤廃する
前工程の指標が現場に定着する前に架電数を外すと、接触が止まります。3ヶ月は両方を並走させ、前工程の件数が安定してから架電数の目標値を調整するのが安全です。
② 準備の質を上長の主観で評価する
「仮説の質」を評価対象にした瞬間、レビューする人の気分や忙しさで基準が揺れます。代表が現場で混乱した原因がまさにこれでした。評価するのは質ではなく有無にします。仮説が書かれているか、個別の資料を送ったか。イエス・ノーで数えられる形にとどめるのが、最初の半年は機能します。
③ 記録を人に書かせ続ける
①②を整えても、終業後に記憶を掘り返して入力する時間が残っていると、現場の実感は変わりません。人がやるべきは会話で、記録は機械の仕事です。録音からの自動生成に寄せて、入力率をKPIから外すところまでやって初めて、前工程に時間が戻ります。
この設計でできないこと
正直にお伝えしておきます。
- 全自動にはしません。 AIの出力は必ず人が確認する設計にしています。個別化した資料をノーチェックで送る運用は、事故のリスクのほうが大きいためです
- 売上そのものは保証しません。 お約束できるのは、削減できた時間と、動く実装物までです。KPI設計を変えれば受注が増えると断言できるほど、営業の変数は少なくありません
- 営業・マーケ以外の領域はお受けしていません。 基幹システムの開発などは対象外です
当社が提供しているのは、営業・マーケに特化したAI導入支援(月額定額24万円〜・税抜/初期費用0円/1ヶ月のトライアルから)で、毎週の定例で御社の業務を棚卸ししながら、効果の大きいものから実装していく形です。KPI設計だけを直しても作業時間が変わらなければ現場は動かない、というのが3つの立場で同じ壁に当たった結論です。
よくある質問
Q. 架電数KPIは完全にやめるべきですか?
やめないでください。行動量は成果の土台で、外すと接触そのものが止まります。推奨は、架電数を残したまま「仮説つきリスト件数」「個別資料の送付件数」を並べて置き、3ヶ月ほど並走させてから架電数の目標値を調整する形です。
Q. インサイドセールスのKPIとしては何件が適正ですか?
適正件数は商材単価と対象企業数で変わるため、一般的な正解はありません。当社が先に見るのは件数の水準ではなく、1件あたりに準備できる時間です。準備に30分かかる状態で1日50件は物理的に成立しないので、前工程の作業時間を圧縮してから件数を決める順序をおすすめしています。
Q. 前工程の準備は本当にAIで自動化できますか?
できます。ただし、いきなり全件を自動化しようとすると失敗します。まず自分の手で10〜20件、企業サイトを読んで仮説を書き、個別の資料を作ってみてください。何を見て、何を書けば商談で効いたのかが言語化できて初めて、AIに任せる形に落とせます。この工程を飛ばして作った仕組みは、出力が当たり障りのない一般論になり、結局は台本営業に戻ります。
Q. 個別化した資料や動画は、そこまで効果がありますか?
当社の経験では、その場で決裁者に会えないケースほど効きます。担当者がそのまま社内に転送できる形になっていれば、こちらが同席しない会議でも検討が進みます。逆に、共通の会社案内だけを送っている場合、社内で説明する負荷が相手側に残るため、そこで止まりやすくなります。
Q. 商談後の記録を自動化すると、営業の情報感度は落ちませんか?
記録の作成を自動化しても、商談中の観察は人が行います。むしろ、終業後に記憶を掘り返して書く運用のほうが情報は落ちます。当社では、録音から自動生成した内容を人が確認して直す形にしており、確認の工程は残しています。
Q. どのくらいの期間で変化が見えますか?
作業時間の短縮は、対象業務を決めてから数週間で数字として出ます。一方、KPI設計の変更が受注に表れるまでは商談サイクルぶんの遅れがあるため、単価と検討期間によって変わります。先に時間、あとから成果、という順序で見てください。
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執筆・監修|佐々木 優希(AIリモートワーカー代表/上場企業 営業統括 兼 AI責任者。スタートアップでのトップセールス、SFA・CRMのエンタープライズ営業マネージャーを経て、営業・マーケ特化のAI実装を行う)