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AIで時間は浮いたのに数字が動かない|浮いた時間の行き先の決め方

佐々木 優希

佐々木 優希

上場企業 営業統括 & AI責任者

15分で読めます

目次
  1. この記事の要点
  2. 時間が浮くことは、もう証明されている
  3. それでも数字が動かなかった|30分を1分にした時期の話
  4. 世界の72%が、同じところで止まっている
  5. 浮いた時間が消える3つの行き先
  6. 行き先は、着手前に1つだけ決める
  7. 動いたかどうかは、4つの数字で測る
  8. 効かなかったときに、払わない形にしておく
  9. よくある質問
  10. 参考文献

「AIを入れて、たしかに作業は速くなった。ただ、受注が増えた実感はない」

社内でAIを進めている方から、いちばん多く聞くのがこの状態です。効いていないわけではありません。時間は本当に浮いています。それでも、売上や商談数のグラフを見ると、去年と同じ形をしている。

これは私自身が通った道でもあります。当社は商談準備を1件あたり30分から1分にしましたが、その時期の受注は増えませんでした。浮いた29分が、そのまま別の作業に吸われていたからです。

この記事は「AIの効果が出ない」を、ツールの選び方ではなく浮いた時間の扱い方の問題として整理したものです。導入がうまくいかない話ではなく、うまくいった後に何もしなかったときに何が起きるか、の話をします。

この記事の要点

  • 時間が浮くこと自体は、もう論点ではない。当社の実測でも商談準備は1件30分→1分、2回目商談の資料は90分→10分になった。それでも受注は増えなかった
  • Gartnerが2026年5月に公表した営業責任者向け調査では、AIは営業1人あたり週約5時間を生む一方、72%の組織が浮いた時間を価値の高い活動に再投資できていない
  • 浮いた時間は放っておくと3つの形で消える。別の事務作業に埋まる/件数を増やす方向にだけ使われる/1件数分ずつ薄く散って総量にならない
  • 対策は1つだけ。着手する前に、浮いた時間の行き先を1つに決めて宣言する。複数決めると、結局どれもやらない
  • 測るのは削減時間ではなく4つ。処理した件数の割合/1件あたりの時間/行き先で増えた行動の件数/その先の商談化。3番目が抜けると「速くなりました」で報告が終わる

時間が浮くことは、もう証明されている

自社の実測。1件あたりの時間は導入前→導入後で、商談準備30分→1分、2回目商談の資料90分→10分、商談後の議事録30分→0分、提案戦略の立案60分→5分
自社の実測。1件あたりの時間は導入前→導入後で、商談準備30分→1分、2回目商談の資料90分→10分、商談後の議事録30分→0分、提案戦略の立案60分→5分

まず前提を片付けます。「AIで業務時間が減るのか」は、2026年時点ではもう検証する段階にありません。

当社が営業・マーケ業務を実際にAI化して、前後で計測した時間が下の表です。いずれも1件あたりの目安で、人の確認時間を含んだ後の数字です。

業務導入前導入後
商談準備(1社のリサーチとストーリー設計)30分1分
2回目商談の資料90分10分
商談後の議事録30分0分
提案戦略の立案60分5分
操作マニュアル1時間10分
ホワイトペーパー5時間10分
SEO記事(調査・構成・執筆)4時間10分
サムネイル画像2〜3営業日3分

外部の調査も同じ方向を指しています。Gartnerが2026年5月に公表した営業責任者向けの調査(CSO・上級営業リーダー227名を対象)では、AIは営業1人あたり週約5時間を節約しているとされています。

数字の性質として補足しておくと、これらはいずれも「作業時間が減った」という話です。売上が増えたという話ではありません。ここを混ぜて説明した瞬間、その報告は検証できなくなります。他社の公表値を自社の稟議に持ち込むときの注意点は、AI導入効果が自社で再現しない理由に分けて書きました。

それでも数字が動かなかった|30分を1分にした時期の話

当社が最初にAI化したのは商談準備です。1社ごとに公開情報を読んで仮説を作る工程で、そこが30分から1分になりました。

正直に書くと、この時期の受注は増えていません。

理由は後から分かりました。浮いた29分が、見積書の作成やメールの返信、社内資料の整理といった「やろうと思っていたけど後回しにしていた作業」に、静かに吸われていたのです。1日の終わりの疲れ方は変わらず、やったことのリストだけが長くなっていました。

数字が動き出したのは、空いた30分を「追いかけきれていない先への連絡」に固定したときです。行き先を1つに決めて、そこにだけ入れる。それをやってから、商談の数が動きました。

付け加えると、私はスタートアップで営業をしていた頃、朝2時間かけて相手ごとの資料を用意する方法でトップセールスになりましたが、そのやり方は他の営業に配れませんでした。毎朝2時間を払える人がいなかったからです。準備工程をAIに渡す本当の価値は、速くすることではなく、一人が守っていた型をチーム全員ぶんに広げられることにあります。

つまり時間を浮かせる工程と、浮いた時間の使い道を決める工程は、別々に設計する必要があります。片方だけやると、今回のように何も起きません。準備工程そのものの設計は商談準備をAI化する順番に分けています。

世界の72%が、同じところで止まっている

Gartner・総務省の調査。浮いた時間を再投資できていない組織が72%、AIが節約する時間は週約5時間(営業1人あたり)、再投資できた組織は目標超過2.2倍・3.1倍、ROIが−50%以下の組織が20%、組織的な取組はないと答えた日本企業が27.0%(米国1.4%・独4.9%・中国2.6%)
Gartner・総務省の調査。浮いた時間を再投資できていない組織が72%、AIが節約する時間は週約5時間(営業1人あたり)、再投資できた組織は目標超過2.2倍・3.1倍、ROIが−50%以下の組織が20%、組織的な取組はないと答えた日本企業が27.0%(米国1.4%・独4.9%・中国2.6%)

これが自社だけの下手さなのかを確かめたくて、公開されている調査を当たりました。結果は、むしろ標準的な失敗でした。

以下はGartnerが2026年5月に公表したプレスリリースの数値です(CSO・上級営業リーダー227名対象)。調査票そのものは公開されていないため、設問文の細部までは確認できていない点をお断りしておきます。

数字中身
週約5時間AIが営業1人あたり節約している時間
72%浮いた時間を価値の高い活動に再投資できていない組織の割合
2.2倍/3.1倍再投資できた組織は、顧客成長目標の超過が2.2倍・リード→商談転換の目標超過が3.1倍
25%と20%AI投資のROIが+50%以上だった組織が25%、−50%以下だった組織も20%
31%営業責任者が挙げた最大の課題=「AIツールのROIを証明することの難しさ」

いちばん重いのは最後の2行です。AIを入れた結果はプラスにもマイナスにも大きく振れていて、しかもその成否を証明できない、と責任者自身が答えています。「入れれば儲かる」でも「入れても無駄」でもなく、設計で結果が真っ二つに割れるのが実情です。

日本固有の事情も一次データで出ています。総務省の令和8年版情報通信白書(2026年7月公表)では、1業務以上で生成AIを使っている企業は日本で86.4%(前年度55.2%)まで来ています。米国90.9%、ドイツ91.6%と大きな差はありません。差がついているのは別の項目です。

業務変革について「組織的な取組はない」と答えた企業は、日本が27.0%。米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%。

使っているかどうかでは、もう差がついていません。個人が使うところまでは各国横並びで、日本だけ「会社としては何もしていない」が4社に1社を超えている。浮いた時間の行き先を誰も決めていない状態が、そのまま数字に出ています。

もう1つ、規模の大きい調査を挙げます。NBERのワーキングペーパー「Firm Data on AI」(2026年2月・米英独豪の上級経営者約6,000人)では、69%の企業がAIを実利用していると答える一方、10人に9人が「過去3年で雇用や生産性に測定可能な影響はなかった」と回答しています。

数字を過剰に読まないでおきます。これは「AIは効かない」ではありません。効き方を測れる形にしていない会社が多数派だ、というだけです。

浮いた時間が消える3つの行き先

自社の失敗と、支援先で見てきた止まり方を並べると、浮いた時間の消え方は3つに分かれます。

① 別の事務作業に埋まる。 いちばん多い形で、当社が最初にやったのもこれです。後回しにしていた作業が空いた枠に入り込むので、本人の実感としては「相変わらず忙しい」まま終わります。悪意も怠慢もありません。枠が空いたら埋まるのが普通なので、先に予約しておかないと取られます。

② 件数を増やす方向にだけ使われる。 準備が速くなったぶん、電話や送信の件数を増やす。一見前向きですが、これは架電数を評価軸にしていた頃の失敗の再現です。件数が評価される以上、行動はそちらに寄り、お客様のためではなく自分の件数のための連絡に戻っていきます。この構造そのものについては架電数をKPIにすると起きることに書きました。

③ 1件数分ずつ、薄く散る。 これは見落としやすい形です。商談準備が29分短くなったとして、月40件なら計算上は月19時間ぶんです。ただし現場での体験は「1回につき29分早く終わる」でしかありません。29分では新しいことを始められないので、休憩や雑務に流れて、19時間という塊としては存在しなくなります

③への対処は、時間を貯めずに行き先を同じ工程の中に置くことです。当社の場合、準備で浮いた29分をそのまま「その日の連絡先を1件増やす」に使いました。移動や気持ちの切り替えが要らない場所に置くと、29分でも実行されます。

行き先は、着手前に1つだけ決める

浮いた時間の行き先を決める5ステップ。1.対象業務を1本だけ選ぶ 2.導入前の1件あたりの時間と月間件数を記録する 3.浮いた時間の行き先を1つ決めて、口に出す 4.行き先での行動を、件数で数える 5.30日回して、前後を比べる
浮いた時間の行き先を決める5ステップ。1.対象業務を1本だけ選ぶ 2.導入前の1件あたりの時間と月間件数を記録する 3.浮いた時間の行き先を1つ決めて、口に出す 4.行き先での行動を、件数で数える 5.30日回して、前後を比べる

ここまでを踏まえた手順です。順番が重要で、行き先を決めるのはAI化に着手する前です。後から決めようとすると、①の埋まりが先に起きます。

  1. 対象業務を1本だけ選ぶ。 毎日発生していて、件数を数えられる業務にします。営業なら商談準備・商談後の記録・リードへの初回連絡が定石です。どの工程を渡してよいかの線引きは営業のどこまでAIに任せられるのかに整理しています
  2. 導入前の1件あたりの時間と、月間件数を記録する。 日報・サンプル実測・ログの3点で測って、いちばん小さい値を採用します。大きい値を採ると後で必ず揉めます
  3. 浮いた時間の行き先を1つ決めて、口に出す。 「追いかけきれていない先への連絡」「顧客ごとの仮説を1つ持つ」「失注先の掘り起こし」のどれか1つです。複数決めると、結局どれもやりません
  4. 行き先での行動を、件数で数える。 「連絡が増える」ではなく「1日3件連絡する」。時間ではなく件数で置くと、やったかどうかが後から確認できます
  5. 30日回して、前後を比べる。 1件あたりの時間と、行き先の行動件数の両方を見ます

3を宣言する意味は、もう1つあります。使い道が示されていない効率化は、現場からは自分の仕事を減らす作業に見えます。「空いた時間で何をしてほしいのか」を先に伝えるほうが、協力を得るうえでも早いです。この摩擦の中身はAIが社内に浸透しない3つの理由に書きました。

動いたかどうかは、4つの数字で測る

削減時間だけを報告すると、必ず「速くなりました」で終わります。当社が見ているのは次の4つです。

#見る数字抜けたときに起きること
1その業務をAIで処理した件数の割合一部の人だけが使っている状態が見えない
21件あたりの所要時間(前後比較)効果の大きさが分からず、次の稟議が通らない
3行き先で増えた行動の件数「時間は浮きました」で報告が終わる
43の先にある商談化・受注効率化と売上が結びつかないまま予算が切られる

3番目が、この記事の本題です。1と2だけを追うと、Gartnerの72%と同じ場所に立ちます。

金額に換算する必要があるなら、時間単価を先に決めてしまうのが実務的です。当社は「年収500万円×1.3÷1,880時間 ≒ 1時間あたり3,500円」を基準に、削減時間×月間件数×12ヶ月×3,500円で年間の削減価値を出しています。営業3名(フィールド1・インサイド1・社長兼マネージャー)で月リード30件・商談15件の規模なら、定型業務3本のAI化で年間約210時間・約75万円が目安です。

この算定は「導入前の時間は正確には測れない」という前提から組んでいます。測れないものを測ろうとすると必ず揉めるので、協定した標準時間×システムで数えた件数に置き換える。考え方は営業のAI化「削減効果」の正しい測り方にまとめました。

効かなかったときに、払わない形にしておく

最後に、お金の払い方も設計の一部だという話をします。

Gartnerの調査でROIが−50%以下だった組織が20%あり、責任者の31%が「ROIを証明できないこと」を最大の課題に挙げている。この2つを素直に受け取ると、月額を先に払い続ける形は、確率的にかなり不利な賭けになります。

当社が成果報酬制(営業・マーケAI導入支援(成果報酬制))を用意しているのは、この不利を発注側から外すためです。業務1本ごとに実装し、実装後30日の実測で削減価値を確認できてから、その40%を実装フィーとしていただく。確認できなければ請求しません。手残りの60%は翌年以降ずっと御社のものになります。

ただ、契約の形は本質ではありません。月額でも買い切りでも、「何が起きたら成功と呼ぶのか」を置く前に始めないというだけの話です。ツール導入が失敗するときの共通点も、結局そこに戻ります(ツール導入が失敗する共通点)。

浮いた時間の行き先は、着手前に決められます。決めるのに費用はかかりません。それをやらないまま入れると、72%の側に入ります。

よくある質問

Q. 浮いた時間の行き先は、誰が決めるべきですか?

現場と、数字を持っている人が一緒に決めてください。現場だけに聞くと「今の作業が少し楽になる」方向の答えが返ってきます。売上やリード数から逆算されていないので、投資としての説明がつきません。逆に上だけで決めると、実行されません。当社が推奨しているのは、対象業務は現場が選び、行き先(浮いた時間を何に使うか)は数字の責任者が1つ決める分け方です。

Q. 行き先を「商談数を増やす」にするのは正しいですか?

条件付きで正しいです。件数だけを増やす方向に全部使うと、質の低い接触が増えて元に戻ります。当社の場合、浮いた時間の半分を件数に、半分を1件あたりの準備の深さに振り分けたときに数字が動きました。1件あたりの準備が30分から1分になったなら、行動量を落とさずに全件へ個別対応を回せるようになっているので、そこを使い切るほうが先です。

Q. 効果が出るまで、どのくらい見ればいいですか?

1業務なら30日で前後比較まで到達できます。判定の目安は、①その業務をAIで処理した件数の割合が半分を超えているか、②1件あたりの時間が減っているか、③行き先の行動件数が増えているか。①と②が動いていて③が動いていない場合は、行き先の設定が悪い(遠すぎる・面倒すぎる)ことがほとんどです。ツールを乗り換えるより、行き先を近い場所に置き直したほうが早く直ります。

Q. すでに導入済みで、効果が測れていません。何から手をつけますか?

過去を測り直すのは諦めて、これから1業務だけ選んでください。導入前の時間はもう取れないので、遡って証明しようとすると時間だけが溶けます。今日から対象を1本決めて、1週間だけ1件あたりの所要時間と件数をメモする。それが基準値になります。全社の集計から始めると、ほぼ確実に途中で止まります。

Q. 少人数の会社でも、この順番は同じですか?

同じですが、行き先の選択肢は少ないほうが有利です。1〜3名の組織なら、浮いた時間は追いかけきれていない先への連絡に固定するのがいちばん確実です。人が少ない会社の取りこぼしはほぼここに集中しているので、新しい施策を始めるより、すでに接点のある相手に戻すほうが歩留まりが高くなります。

Q. 何から着手すべきか、社内で決めきれません

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参考文献

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執筆・監修:佐々木 優希(AIリモートワーカー代表/上場企業 営業統括 兼 AI責任者)

SFA・CRMのエンタープライズ営業として大手企業への導入を推進し、上場企業では営業統括とAI責任者を歴任。営業・マーケティング領域に特化して、AIの実装と運用設計を行っています。

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