医療DX企業|決裁者向け動画と顧客専用ページで、受注率が約10%から約20%に
公開 2026-08-24 / 約12分
受注率(決裁者向け動画と顧客専用ページの導入後)
約10% → 約20%
- 支援先
- 病院向けSaaSを展開する医療DX企業
- 業種
- 医療DX(病院向けSaaS・複数プロダクト)
- 規模
- 従業員数百名。全国の医療機関に広く導入されている
- 関与形態
- 業務委託(週2回・1日5時間)。インサイドセールスとフィールドセールスのイネーブルメントを担当
- 期間
- 2026年(数字が動き始めたのは3ヶ月目から)
- 支援した領域
- トークスクリプト整備/商談コンテンツ制作/事前リサーチの自動化/デジタルセールスルーム/決裁者向け動画/SFA連携/見積書自動作成/営業会議レポート
伸びている事業ほど、こう言われます。「売れているのは分かる。でも、なぜ売れているのかが説明できない」
この支援先も同じでした。特にAIを使った新規プロダクトの事業が伸びていた一方で、再現性を持ってトップセールスを育てる仕組みがない。売れる人は売れる、売れない人は売れないまま、という状態です。
この事例の要点
- 課題は「売れないこと」ではなく、売れている理由が個人の中にしかないことだった
- 録画されていたトップセールスの商談をすべてAIで解析し、共通して効いている訴求を抽出して型に落とした
- 2〜3次商談での決裁者への上申がボトルネックだったため、顧客専用の提案ページ(デジタルセールスルーム)と7分の決裁者向け動画を用意した
- 結果、受注率が 約10%から約20% に上がった
- 顧客専用ページは月80件ほど、動画は1社あたり3本ほどを継続して作れる体制にした(作り切りで終わらせない)
- 動画は再生率が約60%。同じ内容を資料で送ると約30%しか見られない。さらに閲覧アラートで検討中のタイミングに電話できるようになったことが受注率に直結した
- 最初は定着しなかった。自分のやり方にこだわりを持つ営業が多く、先に海外モデルを持ち込んだのが早すぎた
- フィールドセールスのKPIを「訪問数」ではなく、決裁者にコンテンツが届いた状態を作れたかに置き直した
支援先はどんな会社か
病院向けにITサービスを展開する医療DX企業です。勤怠管理や院内の情報共有、AIを使った業務自動化など、複数のプロダクトを提供しています。従業員は数百名の規模で、全国の医療機関に広く導入されています。
顧客が病院であるため、営業には特有の難しさがあります。現場の担当者と決裁権を持つ人が明確に分かれており、決裁までの階層が多いこと。そして病院ごとに事情が違うため、汎用の提案が刺さりにくいことです。
何が起きていたか
事業は伸びていました。それでも組織としては次の状態にありました。
- トップセールスの商談は録画されているが、見返されていない
- 何が効いているのかが言語化されておらず、新しく入った人に渡せない
- 資料は場当たりで作られ、営業ごとに違うものを使っている
- 2次・3次商談まで進んでも、決裁者への上申の段階で止まる
最後の項目が、最も大きな損失を生んでいました。担当者は納得している。しかし院内で決裁を通すのは担当者自身であり、営業はその場にいられません。
打ち手①:トップセールスの商談を解析して、訴求を型にする
まず、録画されていた商談をすべてAIで解析しました。誰が何を話しているかではなく、受注に至った商談に共通して現れる訴求を抽出するためです。
抽出した内容を、セールスイネーブルメントの構成に沿ってトークスクリプトへ整理しました。そのうえで、スクリプトの流れに対応する資料をコンテンツ化しています。
- 基本のサービス紹介資料
- 他社・他の選択肢との差別化資料(病院が実際に比較検討する選択肢を並べたもの)
- 顧客に刺さる事例資料(似た規模・似た課題の病院の事例)
資料の作成と改訂にはClaude Codeを使い、現場から「この病院にはこの切り口が要る」と言われたその日に作り直せる体制にしました。イネーブルメントが失敗する典型は、立派な資料が完成した頃に現場の実情がずれていることです。改訂の速度そのものを設計に入れています。
打ち手②:商談プロセスを標準化して、準備を自動化する
商談の段階ごとに、やることを型にしました。
1次商談の前
公開情報から病院の状況をリサーチし、「想定される課題」と「類似の病院での事例」をまとめた戦略レポート・仮説レポートを自動で用意します。営業は準備ではなく、仮説の確認から商談を始められます。
1次商談
ヒアリングすべき項目を型化しました。誰が担当しても同じ粒度の情報が集まるので、次の工程の質が安定します。
2次商談
1次商談で得た情報をもとに、その病院向けにカスタマイズした提案書・戦略・クロスセル提案を自動生成します。1次で聞いた内容がそのまま2次の提案に反映される状態です。
打ち手③:決裁者に、直接届くものを作る
ここが最も数字を動かした部分です。
海外で主流になっているデジタルセールスルームの考え方を取り入れ、顧客専用の提案ページを作りました。ページには検討の経緯、必要な資料に加えて、その顧客向けにカスタマイズした動画を置いています。
動画は、音声生成(ElevenLabsの日本語モデル)と自動生成スライドを組み合わせて短時間で作れるようにしました。1本を人手で作ると1時間かかるものが、この仕組みでは数分で用意できます。
狙いは1つだけです。「この7分を見れば、決裁者が納得して導入を判断できる」という状態を作ること。担当者に上申を頑張ってもらうのではなく、担当者はページのURLを共有するだけで済むようにしました。
動画のほうが、資料より見られる
実測すると差は明確でした。動画の再生率は約60%。同じ内容を資料で送った場合の閲覧率は約30%です。
理由は内容の善し悪しではなく、共有のしやすさにあります。資料は開いて読む時間を確保しないと頭に入りませんが、動画はURLを送るだけで、移動中でも見られます。院内で回覧されるときも、動画のほうが最後まで届きます。
閲覧アラートが、電話するタイミングを教えてくれる
さらに効いたのが、ページが閲覧されるとアラートが届くことでした。
顧客が検討しているまさにその瞬間が分かるので、そのタイミングで電話できます。この電話は普通の追客とは性質が違います。
- 検討している最中なので、確実に電話に出てもらえる
- 見ていて出てきた懸念を、その場で解消できる
- 次に何をするかを、記憶が新しいうちに決められる
決裁者に届く件数が増えたことに加えて、この「詰め」がきちんと行えるようになったことが、受注率の向上に直結しました。
結果として、受注率は約10%から約20%に上がりました。月およそ60商談を母数に、約6ヶ月での変化です。
重要なのは、この形が単発で終わっていないことです。顧客専用ページは月80件ほど、動画は1社あたり3本ほどを継続して作れています。1件ずつ手作りしていたら、この件数は物理的に出ません。作れる件数が増えたことが、そのまま決裁者に届く件数になっています。
打ち手④:SFA連携と、営業業務の自動化
- 見積書の自動作成フローを構築
- SFAへの情報の自動入力と、条件に応じたワークフローの自動遷移
- 営業の入力負荷を減らし、アプローチリスト作成時の優先順位を可視化
- 営業会議でマネージャーが注力すべき案件を自動判定するレポートを生成
営業会議は、資料を読み上げる時間になりがちです。どの案件に手を入れるべきかが会議前に出ている状態にすると、会議が判断の場に変わります。
結果
| 指標 | 支援前 | 支援後 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 受注率(商談→受注) | 約10% | 約20% | クライアント実測 |
| 顧客専用の提案ページ | 0件 | 月80件ほど | クライアント実測 |
| 決裁者向け動画 | 0本 | 1社あたり3本ほど | クライアント実測 |
| 提案資料の改訂 | 都度手作業 | その日のうちに生成・改訂 | 当社実測 |
| 事前リサーチ・仮説レポート | 営業が個別に作成 | 商談前に自動生成 | — |
受注率は約6ヶ月・月およそ60商談を母数とした前後比較です。
最初に外した仮説:正しさから入って、定着しなかった
最初の進め方は失敗でした。
「海外で流行っているこのモデルを取り入れて、未来の営業スタイルを目指すべき」という前提を置き、経営インパクトのある数字から逆算してプロジェクトを組み立てました。設計としては間違っていないはずです。
しかし、定着しませんでした。
理由は明確です。この会社には、これまでの試行錯誤で作り上げた自分のやり方に、強いこだわりを持つ営業メンバーが多かったのです。そこへ外から「あるべき姿はこれです」と持ち込めば、正しさに関係なく反発が生まれます。実績を出してきた人ほどそうなります。
順番を変えました。まずそのこだわりを丁寧にヒアリングすること。そのうえで「どういうAI化をしてほしいか」を本人たちから引き出し、それを形にして返す。信頼関係を作ることを先に置きました。
いま振り返ると、これが最初に必要な工程でした。正しい設計を持っていることと、それを受け取ってもらえることは別です。
支援先からの評価
支援先の担当者から、こう言われました。
営業プロセスのAI化を週1プロジェクトのペースでどんどん進めてもらったのがありがたかった。また、AI化と同時に社内向けにカスタマイズしたAI研修用の動画コンテンツを作成してくれた。社員がその動画を見るだけで、実行されたAI化の修正を行えるようになったり、自ら自分の営業プロセスでAI化したいと思った際にも動画を参考に進め方がわかるようになった。佐々木さんが抜けてからも自立してみんながAI化できる文化を作ることができた。
週1本のペースでプロジェクトを進めたこと、そしてAI化と同時に、その会社専用の研修動画を作ったことが、この案件の特徴です。
一般的なAI研修の動画は、汎用の使い方講座になります。それを見ても、自分の業務でどう使うかは分かりません。ここで作ったのは、実際に実装したAI化の仕組みそのものを題材にした動画です。だから社員は動画を見るだけで、動いている仕組みを自分で修正できます。「次はこの業務をAI化したい」と思ったときの進め方も、同じ動画から辿れます。
体制と、抜けた後どうなったか
体制:週2回・1日5時間の関与です。数字が動き始めたのは3ヶ月目からでした。
抜けた後:営業メンバーのほとんどが自走してAIを使いこなせる状態になり、運用が続いています。実装した仕組みが止まっていないだけでなく、新しいAI化を自分たちで始められるところまで到達しました。
ツール費:入力作業を音声化したいという要望があったため、音声入力ツール(Typeless)を導入しました。1人あたり年間2万円程度です。加えて、実装担当にはClaude CodeのMaxプラン(月100ドルから。上位プランは月200ドル。2026年8月時点)を1人分用意しています。大きな追加投資が必要な構成ではありません。
なぜ効いたのか
フィールドセールスのKPIを置き直したことが、この案件の本質でした。
訪問数や商談数をKPIにすると、決裁者に届かない商談が量産されます。ここで重要KPIに据えたのは、再現性を持って資料・動画などのコンテンツを作り、それらをまとめたページをいかに決裁者に見せるかでした。見せられた件数が増えれば、受注は後からついてきます。
もう一つは、型化の材料を人の記憶から取らなかったことです。トップセールスに「何が効いていますか」と聞くと、本人が意識している要素しか出てきません。録画をすべて解析して共通項を取ると、本人も自覚していない訴求が見つかります。
御社で再現するための条件
- 商談が録画されている(または録画を始められる)
- 受注した商談と失注した商談を区別できる(SFA・CRMに記録がある)
- 決裁者と商談相手が分かれている
- 資料を改訂できる人が社内にいる、または改訂を任せられる体制がある
よくある質問
Q. 受注率が2倍というのは、動画だけの効果ですか?
動画単体の寄与を切り出した数字ではありません。トークスクリプトの型化、事前リサーチの自動化、提案の個別化を同時に進めた期間の前後比較です。ここで正確に言えるのは、決裁者へ直接届くコンテンツを用意する方針に切り替えた前後で、受注率が約10%から約20%になったという事実関係です。母数は月およそ60商談、期間は約6ヶ月なので、少数の当たり案件で振れた数字ではありません。
Q. 商談の録画がないと始められませんか?
録画がなくても始められますが、精度は落ちます。録画がない場合は、受注案件のSFA記録と、トップセールスへのヒアリングを組み合わせて仮の型を作り、そこから録画を貯めて更新していく進め方をとります。最初から完成した型を作ろうとしないことが、実務では重要です。
Q. 資料ではなく動画にする意味はありますか?
この案件では実測で差が出ました。動画の再生率は約60%、同じ内容を資料で送った場合の閲覧率は約30%です。内容の質ではなく、共有のしやすさの差です。加えて、閲覧されるとアラートが届く仕組みにしたことで、顧客が検討しているまさにそのタイミングで電話できるようになりました。検討中なので電話にも出てもらえますし、出てきた懸念をその場で解消できます。
Q. 現場の営業から反発はありませんでしたか?
ありました。むしろ最初は定着していません。自分のやり方にこだわりを持つメンバーが多い組織に、外から「あるべき姿はこれです」と持ち込んだためです。先にこだわりをヒアリングし、「どうAI化してほしいか」を本人たちから引き出して形にするところからやり直しました。設計の正しさより、受け取ってもらえる順番のほうが先です。
Q. 動画は誰が作るのですか?
仕組みができた後は、営業チーム側で作れます。音声生成とスライド生成を組み合わせているため、原稿を差し替えれば新しい動画が出ます。属人的な動画編集スキルを前提にすると、担当者が抜けた瞬間に止まります。
Q. 病院向け以外でも同じ設計は使えますか?
決裁の階層が深く、商談相手と決裁者が別人である商材であれば同じ構造が使えます。医療に固有なのは、比較検討される選択肢と、事例として響く相手の条件(同規模・同機能の施設)の部分です。そこは業界ごとに作り直す必要があります。
数字と、その出所
- クライアント実測
受注率(商談→受注)
約10%→約20%
約6ヶ月・月およそ60商談を母数とした前後比較
クライアント側の管理画面・SFA等で計測された値
- クライアント実測
顧客専用の提案ページ
0件→月80件ほど
商談ごとに個別に作成したデジタルセールスルームのページ
クライアント側の管理画面・SFA等で計測された値
- クライアント実測
決裁者向け動画
0本→1社あたり3本ほど
顧客ごとにカスタマイズして作成
クライアント側の管理画面・SFA等で計測された値
- クライアント実測
決裁者向け動画の再生率
—→約60%
同じ内容を資料で送った場合の閲覧率は約30%
クライアント側の管理画面・SFA等で計測された値
- 当社実測
資料の作成・改訂
都度手作業→即時生成
Claude Codeで生成・改訂する体制に変更
当社が同じ手順で計測した値(計測方法を本文に記載)
いずれも複数の施策を同時に進めた期間の前後比較であり、AIツール単体の寄与を切り出した数字ではありません。 社名を伏せている理由と、そのぶん守っている編集方針は支援実績の編集方針に記載しています。
御社の場合は、どこから始めるか
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