社内にAI担当者がいない会社の進め方|3つの役割に分けて費用で比べる
目次
「AIを入れたい」で止まっている会社の多くは、ツールを選べていないのではありません。それを進める人が決まっていないだけです。
社長が一番詳しいが手が空かない。営業部長に振ったが、既に自分の数字を持っている。詳しい若手が1人いるが、その人が辞めたら終わる。——この状態で見積を3社から取っても、比べる基準が社内にないので決まりません。
この記事は「担当者を1人決めましょう」とは書きません。1人に決めようとするから止まるからです。代わりに、AIを進める仕事を3つの役割に分けて、どれを社内に残しどれを外に出すかを決める順番を書きます。当社が入る側でも入れる側でもやってみて、外に出してはいけない役割がはっきり1つあることが分かったので、そこを中心に置きます。
この記事の要点
- 中小企業がAI活用で挙げる課題の2位は「専門人材・ノウハウ不足」41.3%。人がいないのは自社だけの事情ではない(帝国データバンク・有効回答10,312社)
- AIを進める仕事は①決める人 ②型を作る人 ③回し続ける人の3つに分かれる。兼務が破綻するのは、能力ではなく3役を1人に乗せているから
- 外に出せるのは②だけ。①を外に出すと成功の定義が業者側の都合になり、③を外に出すと契約が切れた日に元に戻る
- 費用は「兼務=0円」ではない。営業職1人の1時間は約3,500円(当社の算定式)。月10時間充てれば年間約42万円分の時間を使っている
- 最初の90日で決めるのは、ツールではなく1業務・Beforeの数字・浮いた時間の行き先の3つ
「進める人がいない」は自社の特殊事情ではない

帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査(23,349社に実施・有効回答10,312社・2026年3月17〜31日)では、生成AIを業務で活用している企業は34.5%でした。規模別に見ると差が出ます。
| 企業規模 | 生成AIを業務活用している割合 |
|---|---|
| 大企業 | 46.5% |
| 中小企業 | 32.4% |
| 小規模企業 | 28.0% |
大企業と小規模企業で18.5ポイントの差です。ツールの値段は規模で変わりませんから、差がついているのは使える人がいるかどうかのほうだと読めます。
同じ調査で挙げられた課題は、1位が「情報の正確性」50.4%、2位が「専門人材・ノウハウ不足」41.3%でした。4割を超える企業が「知見のある人がいない」を課題に挙げている状態で、その全社が採用で解決できるわけがありません。採用市場で取り合いになっている人材を待つ設計は、最初から詰んでいます。
海外でも同じ壁に対して別の解が立ち上がっています。米国では外部のAI責任者を月8〜20時間だけ借りる形が相場として定着し、月2,000〜8,000ドルの水準で取引されています(AI Consulting Network 2026)。フルタイムで1人雇う前提を外し、役割ごとに時間で借りるという考え方です。
兼務で止まる理由は、能力ではなく役割の数

代表(佐々木)は上場企業でAI責任者を務めていた時期に、現場が使えるように業務に即した活用動画を作って配りました。結果は「見る時間がない」で、多くの人は慣れたやり方に戻りました。使い続けたのは、元から自分で試すタイプの数人だけでした。
当時の失敗はもうひとつあります。現場に「何をAI化したいですか」と聞いたことです。返ってきたのは、売上から逆算されていない要望でした。あの質問をした時点で、一番外に出してはいけない「決める」役割を、現場に丸投げしていたわけです。
この構図をほどくと、AIを進める仕事は3つに分かれます。
| 役割 | 具体的に何をするか | 外に出せるか |
|---|---|---|
| ①決める人 | どの業務から手をつけるか/何が起きたら成功と呼ぶか/浮いた時間を何に充てるか | 出せない |
| ②型を作る人 | 1業務を実際に動く形に置き換える。例外の処理まで決める | 出せる |
| ③回し続ける人 | 使われているかを見る/例外と苦情を受ける/型を更新する | 出すと戻る |
兼務の担当者が潰れるのは、この3つが同時に乗るからです。①には社内の力関係を動かす権限が要り、②にはまとまった作業時間が要り、③には毎週の細かい手間が要る。必要な資源の種類が違う3つを、片手間の1人に積んでいるのが「進まない」の中身です。
「決める」が空席のままツールだけ配ると何が起きるかは、AIが社内に浸透しない3つの理由に書きました。研修から入る場合の落とし穴はAI研修が「意味ない」と言われる理由のほうです。
なお、この壁は日本だけの話ではありません。世界22カ国の営業職4,050名を対象にしたSalesforceの調査(State of Sales 第7版・2026年2月4日公表)では、営業組織の87%が何らかのAIを使い、54%がAIエージェントの使用経験を持つ一方、AIリーダーの51%が「システムが分断されていてAI施策が進まない」と答えています。ツールは配れても、顧客情報が3か所に散らばっている状態は誰かが引き受けないと直りません。これは②でも③でもなく、①が決めることです。
4つの選択肢を、同じ物差しで並べる
「兼務・採用・研修・外部委託」を費用で並べます。外部委託は契約の形で3つに割れるので、表では6行になります。金額はすべて出典を付け、当社の数字は当社ページの公開値です。
| 選択肢 | 費用の目安 | 担える役割 | 弱点 |
|---|---|---|---|
| 社内で兼務 | 追加支出0円/ただし時間は原資 | ①②③(ただし片手間) | 本業の繁忙期に必ず止まる |
| 採用する | 本記事では金額を示さない(後述) | ①②③ | 採れるまで何も進まない |
| 研修で育てる | 集合研修1回20〜60万円/講師派遣1回30〜80万円/eラーニング1人あたり月1,000〜5,000円(相場)。当社の動画サブスク型は月20万円〜・双方向プラン月25万円・初期0円・最低3ヶ月・人数無制限 | ②③の底上げ | ①が空席だと受講しても業務が変わらない |
| 月額定額で伴走を借りる | 当社/sales-aiは月24万円〜(12ヶ月)・28万円(6ヶ月)・33万円(3ヶ月)・単月38万円/初期0円・毎週定例 | ②と③の一部 | 月額が固定費として残る |
| 業務1本ごとに借りる | 当社/fdeは実装フィー=年間価値の40%・最低10万円/本・前払いなし | ②のみ | ①が無いと発注単位を決められない |
| 外部のAI責任者を時間で借りる(米国の相場) | 月8〜20時間で月2,000〜8,000ドル | ①の一部+②の設計 | 日本ではまだ相場が定まっていない |
採用の金額を書かないのは、当社に検証した一次データがないからです。ただ、41.3%が同じ人材を探している事実を踏まえると、「採用できたら始める」は計画ではなく期待になります。
そして「兼務=0円」も違います。当社が実装フィーを計算するときに使っている式は、年収500万円×1.3÷1,880時間で1時間あたり約3,500円です(算定の内訳)。仮に兼務の担当者が月10時間をAI関連に使うなら、年間120時間=約42万円分の時間を投じていることになります。月10時間という前提は当社の仮定ですが、置いた瞬間に「研修に月20万円」「実装1本に10万円」と同じ土俵で比べられるようになります。比較が始まらない原因は、社内の時間に値段が付いていないことです。
出してよい役割と、出すと壊れる役割
上の表を役割で読み替えると、判断は3行に縮みます。
①決める人は、社内に置く。 何が起きたら成功と呼ぶかを外部に決めさせると、成功の定義が「納品が終わったこと」になります。受注が増えたか、商談で勝てるようになったかは、社外の人間には測れません。当社が診断に入るときも、決めるのはお客様です。当社は選択肢と削減価値の見積を並べるところまでで、優先順位に社内の事情(誰の仕事を減らすと角が立つか、今期どの数字を守るか)を入れられるのは社内の人だけです。
②型を作る人は、外から入れてよい。 ここは作業時間とやり方の知識で決まる部分で、社内の人間である必要がありません。むしろ兼務の担当者から真っ先に外すべきはここです。1業務を動く形にするには連続した時間が必要で、片手間では一番割を食う工程だからです。
③回し続ける人は、外に出すと契約が切れた日に元に戻ります。 ここは薄くても社内に残します。使われているかを見る人・例外を引き受ける人が社内にいないと、外部が抜けた瞬間に運用が止まります。逆に言えば、外部に頼む契約は「③を社内に引き渡すところまで」を範囲に入れるべきです。
同じ失敗はAIに限りません。要望を集めて設計したのに現場が入力しなかったSFAの話はSFAが定着しない本当の理由、3つの立場で同じ壁に当たった記録はツール導入が失敗する共通点にまとめています。道具ではなく役割の設計で決まるという点は、SFAでもAIでも変わりませんでした。
最初の90日で決めるのは、ツールではなく3つ

体制が決まったら、最初にやることはツール選定ではありません。順番はこうです。
- 1業務だけ選ぶ(毎日か毎週発生し、正誤を後から確かめられる工程)
- Beforeを測る(その業務に、1件あたり何分かかっているか。月に何件あるか)
- 浮いた時間の行き先を先に決める(追客の件数を増やすのか、仮説を作る時間に充てるのか)
3つ目を省くと、時間は浮いても数字は動きません。AIで営業1人あたり週5時間が浮いても72%の組織が浮いた時間を高価値の活動に再投資できていないという調査結果があり、これは日本の中小企業に限った話ではありません。詳しくはAIで時間は浮いたのに数字が動かないに分けて書きました。
1業務の選び方に迷う場合、判断の枠組みは営業のどこまでAIに任せられるのかが使えます。要点は、正誤を後から確かめられる工程から渡すことです。当社では商談準備を1件30分から1分にしていますが、これが成立するのは出てきた内容の正しさを商談の場で確かめられるからで、確かめようのない工程を先に渡すと事故になります。
顧客側から見たときの意味も付け足します。準備の時間が縮んだ会社は、お客様の直近の動きを見てから商談に入れるようになります。逆に、この体制が決まらないまま半年が過ぎた会社は、お客様から見て去年と同じ質問をする営業のままです。AIを進める体制の話は、最終的にはここに出ます。
依頼先の比較を先に見たい場合はAI導入支援会社の選び方、料金体系の違いはAI導入支援の費用相場にまとめてあります。
よくある質問
Q. AI担当者は兼務でも大丈夫ですか?
兼務そのものは問題ありません。3役を1人に乗せるのが問題です。兼務で残すなら「①決める」と「③回し続ける」に絞り、まとまった時間が必要な「②型を作る」を外に出す形が現実的です。逆の分け方(決めるのを外注して手を動かすのを社内で兼務)は、当社が見てきた限り一番止まりやすい組み合わせでした。
Q. AI人材を採用したほうが早くないですか?
採用できるなら早いです。ただ帝国データバンクの調査では中小企業の課題2位が「専門人材・ノウハウ不足」41.3%で、同じ人材を多くの会社が探しています。採用は進めつつ、採用が決まるまで止めない形を並行で置くのが安全です。1人目が入社したときに「すでに1業務が動いている」状態を渡せると、その人の立ち上がりも早くなります。
Q. 研修から始めるのは間違いですか?
間違いではありませんが、順番の問題です。「①決める」が空席のまま研修を配ると、受講率は上がっても業務が変わりません。当社が動画を配って見られなかったのがまさにこれでした。1業務を実際に置き換えた後なら、研修は「同じことを他の人にも」の装置として効きます。形態ごとの費用と向き不向きはAI研修が「意味ない」と言われる理由に整理しました。
Q. 社長が自分でやるのは無理がありますか?
「①決める」は社長がやるのが最も速いです。何が起きたら成功かを即断できるのは社長だけだからです。無理があるのは②を社長が抱えることで、実装作業は繁忙期に必ず後回しになります。社長が①を持ち、②を外に出し、③を1人に薄く持たせる形が、10〜50名規模では一番回りました。
Q. 外部に頼むと、社内にノウハウが残らないのではないですか?
契約の範囲に「③を社内に引き渡すところまで」を入れれば残ります。逆に、運用も例外処理も外部が持ったままだと、抜けた日に元に戻ります。依頼するときは「誰が回し続けるのか」「引き渡しの形(手順書・録画・立ち会い)はどうするのか」を最初に確認してください。この2問に具体的に答えられない相手は、役割の分担を考えていません。
Q. どの規模から外部に頼む意味がありますか?
社内に②を担える人の連続した作業時間が月20時間取れないなら、規模に関係なく外に出したほうが進みます。金額の比較は「月額固定(当社は月24万円〜)」と「業務1本ごとの後払い(年間価値の40%・最低10万円/本)」のどちらが社内の意思決定に合うかで決まります。1本だけ試して社内の反応を見るなら後者、複数業務を並行で進めるなら前者が向いています。
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執筆・監修:佐々木 優希(AIリモートワーカー 代表/上場企業 営業統括 兼 AI責任者)