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生成AIの費用対効果はどう算出するか|住友商事が「年12億円」を算定式ごと公開した

公開 2026-08-18 / 約11

Microsoft 365 Copilotのコスト削減効果(2024年度の見込み値・約9,000人・同社算出)

年12億円

出典:自社発表2025-11-04時点)

地域
🇯🇵 日本
業種
総合商社
AI化した領域
社内業務全般/メール・会議/契約書の確認/財務分析/全社への定着/効果の算定
出典の種別
自社発表/報道

生成AIの効果を金額で言える会社は多くありません。理由は簡単で、測り方を決めていないからです。この会社は先に算定式を決めて、そこから金額を出しています。

この事例の要点

  • 2024年4月、海外グループ会社を含む約9,000人へMicrosoft 365 Copilotを一斉導入。正社員だけでなく派遣社員・出向者・業務委託メンバーにもライセンスを付与
  • 2024年度のコスト削減効果は年間約12億円、業務時間の削減は1か月あたり約1万時間(いずれも2024年12月時点。12億円は2024年度の見込み値として算出されたもの)
  • ライセンス費用は1ユーザー月額約4,500円・年間4〜5億円規模(報道)。この費用と並べて示された数字である点が重要
  • 月間アクティブユーザーは約90%(2025年10月時点)。配って終わりにしていない
  • 算定方法は「1アクションあたりの平均削減時間 × アクション回数 × 人件費」Microsoft側のダッシュボードが置いている「1アクション=6分」という前提を、同社が年1回のユーザーアンケートで独自に検証し、ほぼ一致することを確認している
  • 日常的な用途はメールの要約・会議のまとめ・壁打ち・投資先分析・財務分析。ある事業ユニットでは契約書の必要箇所の抽出や新旧比較・購読物や業界紙の要約・顧客情報の共有と検索の活用が進んでいる
  • 定着策は全社ではアンバサダー制度「Copilot Champion」社内セミナー、そして社内SNS上のユーザーコミュニティ。Microsoft 365の実務担当はわずか2人
  • 一方で課題も語られている。利用者が過度な期待を持って「使えない」と判断してしまうこと、2025年度に機能が進化して従来の算定式が実態と合わなくなったこと、全社の残業時間は「微減」にとどまっていること

どんな会社か

総合商社です。金属・輸送機・インフラ・資源・生活産業など事業領域が広く、扱う書類も契約類も多い。大量の文書を読んで判断する仕事が中心にある会社だという点が、この事例の前提です。

参考にするうえで注意すべきは規模と人件費です。約9,000人という規模と、商社の人件費単価が金額の大きさを作っています。同じ取り組みでも、金額は会社によって桁が変わります

何をAI化したのか

特定の業務システムを作った話ではありません。普段使っているOffice側にAIを載せたという話です。

用途中身
メール・会議メールの要約、会議のまとめ、返信メールの下書き、壁打ち
投資・財務投資先分析、財務分析、決算書の読み取り
契約・法務長い契約書から必要な箇所を抽出、更新時に新旧の契約書を比較して差異を抽出
情報収集購読物や業界紙の要約、顧客情報の共有・検索の効率化

個別のAIを何本も作るのではなく、全員が毎日触るツールの中にAIを置いた構成です。その代わり、使うかどうかは各自に委ねられるので、定着の設計が重要になります。

なお下の2行(契約・法務、情報収集)は、森林資源事業ユニット(約50名)が合宿のグループワークで洗い出したテーマで、同ユニットではすでに実務で使われている一方、実装に向けた検討が続いているものも含みます。全社で完成している用途一覧ではありません

この事例の核心は「金額の出し方」

住友商事の公表値。コスト削減効果は年間約12億円、業務時間の削減は月約1万時間、月間アクティブ率は約90%。算定式は1アクションあたりの削減時間×アクション回数×人件費
住友商事の公表値。コスト削減効果は年間約12億円、業務時間の削減は月約1万時間、月間アクティブ率は約90%。算定式は1アクションあたりの削減時間×アクション回数×人件費

12億円という数字の価値は、金額の大きさではなく出し方が公開されていることです。

仕組みはこうです。Microsoftが提供するCopilotダッシュボードには、1アクション(プロンプト送信やメールの要約ボタンの操作)につき6分の削減とみなして累積削減時間を出す機能があります。テナント全体のアクション回数に6分を掛ければ総削減時間になり、そこに平均時給を掛ければ金額になる。

ただし同社の担当者は、この「1アクション=6分」が本当に正しいのかを疑いました。そこで年1回のユーザーアンケートで、主要なアクションごとに「1アクションあたり、月間どれぐらい削減できたと思いますか」と自己申告してもらい、平均値を全体のアクション回数と照らし合わせて検証しています。回答者は2024年度が約1,300人、2025年度が約2,300人。その結果、Microsoftが示していた6分とほぼ一致することを確認した、と報じられています。

ベンダーが用意した前提値を、自社のアンケートで裏取りしている。ここがこの事例のいちばん再現価値のある部分です。

この形にしておくと何が起きるか。効果を毎期同じ方法で出せます。逆に算定式を決めていない会社は、導入から半年後に「効果はあったのか」と聞かれて答えられません。体感を語ることになり、体感は人によって違うので合意になりません。

実際、同社にとって2024年12月の報告は重い場面でした。翌年度のライセンス契約更新で数が大幅に削られる可能性があり、12億円という数字を示して経営の承認を得たと担当者は振り返っています。算定式は、社内で予算を守るための道具でもあります。

もう1つ効いているのは月間アクティブ率を見ていることです。約90%という数字を持っていれば、「使われていないから効果が出ない」のか「使われているが効果の出る業務に当たっていない」のかを切り分けられます。なお同社の担当者は、90%でも不十分で最終的には100%であるべきだと述べています。配ってからの話をしている会社だという点は、そのまま参考になります。

算定式は、あとから壊れる

この事例がもう1つ教えてくれるのは、一度決めた算定式が永久に使えるわけではないということです。

2025年度に入り、Copilotにリサーチツールなどのエージェント機能が追加されました。報道によると、リサーチツールは人力なら1週間かかるような調査業務を数分から数十分で終わらせます。すると従来の「1アクション=6分」では実態とかけ離れた数字が出てしまう。同社の担当者は新たな検証方法の確立が課題だと述べています。

もう1つ、削減した時間が残業時間の減少にはあまり現れていないことも語られています。全社の残業時間は「微減」にとどまる。理由は、空いた時間が新しい投資案件の検討や既存事業のバリューアップなど別の業務に充てられているためです。アンケートで削減時間の使い道を聞くと、1位は「残業時間が減った」でしたが、2位以降は「顧客対応やマネジメントなど本来業務により力を入れている」「情報収集・リサーチ系の業務」「新しい施策の作成・実行」が続いています。担当者は、残業削減を第一目標にはしていないと明言しています。

時間の削減額と、損益計算書上の変化は別物です。この事例は、その差を自社発表と報道の両方で示している珍しい例です。

中小企業が真似できる3点

9,000人の話ですが、算定の型は人数に依存しません。

① 「1回あたり何分」を先に決める

対象業務を3つだけ選び、1回あたりの削減時間を先に決めて記録します。厳密でなくてよく、5分なのか30分なのかの桁が合っていれば十分です。同社もツール側が置いた6分という単位から始めています。先に決めるのが要点で、後から思い出すのは不可能です。

② 回数を数える

削減時間×回数でしか金額になりません。回数は既にどこかに記録されています(送信済みメール、商談件数、請求書の枚数)。新しく計測を始める前に、既にある数を探すほうが早いです。

③ ツールが出す数字を、自社の実感で1度だけ裏取りする

同社がやったのは、ベンダーの前提値をアンケートで検証することでした。5人の会社なら5人に「1回あたり何分短くなったか」を聞くだけで足ります。裏取りをしていない数字は、社内で1回疑われた時点で使えなくなります。

こうした「対象業務を選び、算定式を決めて、使われる状態まで持っていく」工程は、業務を分かっている人が伴走しないと形になりません。当社は成果報酬型の支援で、実装前に算定式(対象業務の件数×1件あたりの短縮時間×時間単価)を先に合意してから進めています。社内に担い手がいない場合の選択肢の1つとして検討する余地があります。

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注意して読むべき点

  • 12億円・月1万時間は同社の算出値です。監査された財務数値ではありません
  • 12億円は2024年度(2024年4月〜2025年3月)の見込み値として2024年12月時点で出された数字です。年度確定後の実績値は公表されていません
  • 削減時間はアンケートによる自己申告が基礎になっています。実測ログではありません
  • 金額は削減時間に人件費を掛けたものです。人件費単価が高い会社ほど金額は大きくなります。総合商社の単価をそのまま自社に当てると過大になります
  • 削減された時間が売上や利益に変わったことを示す数字ではありません。同社自身、全社の残業時間は「微減」にとどまると説明しています
  • 数字の時点は2024年12月、アクティブ率は2025年10月時点です
  • 1人あたりの削減時間は、報道ではアンケート回答ベースで2024年度の約4時間から2025年度に約9.5時間へと示されています。これは回答者(約1,300人→約2,300人)の自己申告であり、全社の月約1万時間を約9,000人で割った値とは母集団が異なります。2つを同じ指標として並べることはできません
  • 同社は課題も語っています。利用者が過度な期待から「使えない」と判断してしまうこと、機能の進化で従来の算定式が実態と合わなくなったこと。順調な話だけの事例ではありません
  • Copilotについての質問は既存のヘルプデスクでは受け付けておらず、社内SNS上のユーザーコミュニティで直接受ける体制に切り替えられています。製品の更新が速く、既存体制では追いつかなかったためだと説明されています

よくある質問

Q. 生成AIの効果を金額で出すには何が必要ですか?

3つです。①対象業務ごとの「1回あたりの削減時間」②その業務の回数 ③時間単価。住友商事はこの3つを掛けて金額にしています。削減時間はアンケートによる自己申告でも構いません。厳密さより、毎回同じ方法で出せることが重要です。方法が変わると前期と比較できなくなります。

Q. ツールが自動で出す削減時間をそのまま使ってよいですか?

そのまま使う前に1度だけ裏取りすることをおすすめします。住友商事は、Microsoftのダッシュボードが置く「1アクション=6分」という前提を、年1回のユーザーアンケート(2024年度 約1,300人、2025年度 約2,300人が回答)で検証し、ほぼ一致することを確認したうえで使っています。裏取りのない数字は、社内で一度疑われると使えなくなります。

Q. 中小企業がこの事例から最初に真似すべきことは何ですか?

対象業務を3つに絞り、先に「1回あたり何分短くなるか」を決めて記録することです。回数は送信済みメールや請求書の枚数など既にある記録から拾えます。5人の会社なら5人に聞くだけで裏取りも済みます。9,000人という規模が必要なのは金額の大きさであって、算定の型そのものではありません。

Q. AIを導入すれば残業は減りますか?

この事例からは、そう単純には言えません。住友商事は月約1万時間の削減効果を算出しながら、全社の残業時間は「微減」にとどまると説明しています。空いた時間が新しい投資案件の検討や本来業務に振り向けられているためです。時間の削減額と、損益計算書上の変化は別物として設計したほうが安全です。

Q. 公表された数字はどこまで信用できますか?

12億円は同社が自ら算出した2024年度の見込み値で、監査された財務数値ではありません。ただしこの事例は、算定式・アンケートの回答者数・ライセンス費用の規模(1ユーザー月額約4,500円、年間4〜5億円規模)まで公開されている点で検証しやすい部類です。金額の大きさより、出し方が書かれているかどうかで信頼度を判断するのが実務的だと考えています。

出典

出典と、その読み方

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